落ち込むシュゼットに、後ろに連なるメグが囁いてきた。

「そんなにうつむくとベールが落ちてしまいますよ。こういうときは楽しいことを考えましょう。そういえば、先日ダーエの新刊が出たそうです。店ではすぐに売り切れになってしまったらしくて、わたしはまだ手に入れてないんですけどね」

 情報通のメグが手に入れられなかったとは珍しい。
 彼女は発売日がわかったら休暇を取って、開店直後に買い求めるような熱狂的なダーエファンなのに。

(恐らく私のせいで買いに行けなかったんでしょう)

 メグは王妃として多忙なシュゼットをそばで支えてくれていた。
 一カ月もの間、一度も休みを取っていないので、当然ながら本を買いに行く暇もなかったはずだ。

 大好きなダーエの小説より自分を選んでくれて、嬉しさがこみ上げる。
 ぽうっと火が灯るような温かさに身をゆだねると、じめじめしていた気持ちが乾いていった。

(メグは太陽のようです)

 ぽかぽかした明るさに、シュゼットはどれだけ救われてきたか分からない。

「メグ、ありがとうございます」
「私は何もしていませんよ?」

 優しいメグはきょとんとする。
 自分がどれだけすごいことをしているのか自覚していないようだ。

(お礼がしたいです。メグが喜びそうな物は、やはりダーエの新刊でしょうね)