期待、するから


「え、帰るの?」

そう問えば、すでに持っていた自分の鞄とは別に、しまい終えた私の鞄も持ちながら、蓮が立ち上がる。


「だって、こんなとこでキスは嫌だろ?」


こんなとこ、とは教室のことだ。

他に人はいなくて、私たち2人だけの。

でも、キス、とは?


「えっ、ちょ」

わけがわからないまま、腕を引かれる。


そのまま教室を出て、靴を履き替えて、歩き慣れた通学路をいつもより速いペースで進んだ。


その間もずっと手は握られたままで。

いつもと同じ景色が流れるのを横目に見ながら、何も分からない私の頭に、いつぞやの記憶が蘇る。



『蓮のやつ、一年の女子と付き合ってるってよ』
『あ、それ知ってる。キスしてたらしいな』
『うぉ、やるなぁ』


クラスの男の子たちの会話。

それを聞いて落胆したあの日から、まだ1ヶ月も経っていない。