期待、するから


「ぐぇ」


蓮の口を押さえるだけのつもりだったけど、焦ったせいか結構な勢いで顔を押し返してしまったみたいで。

上を向いたことによって晒された蓮の喉仏が、変な声を上げながら上下に動いた。


「あ、ごめん」


手を離せば、首を抑えながら姿勢を正す蓮。

縮まりかけた距離が、最初の適切な位置に戻ったことにほっとする。


「ひでぇ」
「ごめんって」

謝りながらも、悪いのは私か?という疑問が付き纏う。


「まぁ場所が悪いか」


そう呟いたと思ったら、ぽいぽいと鞄に勉強道具をしまっていく蓮。


ぼーっとそれを眺めていたら、「ほら、瑞稀も」と促される。

訳が分からず動かないでいると、なぜか私の荷物を私の鞄に勝手に入れ始めて、そこでようやく帰ろうとしているんだと気づいた。