婚約者に捨てられた夜、八歳年下の幼馴染みにプロポーズされました。

 健人が私の肩を抱き寄せる。

「健人」
「迎えに来たよ。早く帰ろ。母さんがごちそう作って待ってるから」
「……うん、ありがとう」

 優しい笑顔を見て、安心した。
 最初から健人に迎えに来てもらえばよかった。

「待て、美緒は俺と話していたんだぞ」
「元婚約者さん。僕の奥さんに変な絡み方しないでください。日本で重婚は禁止って知らないの?」
「は!? 奥さん? 重婚? ばかいうな。子どもが大人と結婚できるわけないだろ」

 氷堂は生まれて初めて聞く単語を聞いたように声を上ずらせた。

「昨日籍を入れたから、僕とミオは法の上でも夫婦。だから諦めてね、元婚約者さん」
「そんな、うそだ、俺と結婚する予定だったのに。もう他の男がいるなんて」

 自分から婚約破棄したことを棚に上げて、まだすがってくる。

「婚約中に後輩と恋仲になっていたあんたがそれをいうなんて、おかしな話ね。さよなら、氷堂さん。私は健人と幸せになるから、あなたもリンちゃんとお幸せにね」


 今度こそ振り払って、健人と手を取り合って歩き出す。

「ありがとう、健人。私、最初から健人と婚約していたらこんな遠回りしなくて済んだのにね」
「そうだよ。僕は十年前からミオひとすじなんだから。結婚できる年齢になってよかった。だって堂々と、ミオは僕のだって言えるんだもの」

 健人が小さかった頃のように、手を繋いで帰る。
 でもあの頃とは違う。
 今の私達は夫婦。
 繋いだ手が温かくてこそばゆい。