私が握ってみると、彼の手サイズにしてあるせいで握りづらい。

それなのに“負荷が重い?”って見当違いなことを…でもまた嬉しそうに言う三井くんは、負荷もはっきりと知らないようだったのでトレーニングじゃないなら興味ないと、私はグリップを置いた。

トレーニングなら自分の握力を知った上で負荷を決めるべきなんだよ。でも私が説明することもないしね。

興味ないと自分の教室へ戻るはずが、なぜか三井くんのペースで一緒に学食へ行くことになった。

彼らしいと言えば彼らしいのかもしれない派手な登場で誘われるとギョッとする。一番乗りなんてどうでもいいんだけれど…腹ペコ過ぎるらしい彼の集める視線を一緒に浴びるのは面倒だから、先に走った。

三井くんは人の注目とか、人と群れるとか、慣れている人種なんだよね。きっと小さな頃からずっと。

私は小さな頃、親のいない可哀想な子っていう目で見られて、一歩離れて接してくる人が多かったと思うし、きぃちゃたちが一緒に住み始めると、おかしな家族っていう目で見られて二歩離れて接してくる人が多かったと思う。

そんな私に三井くんは普通に距離感を縮めるんだ…それって才能だよね。

「美味しいな、さゆみん。直季のそれ、何?」
「天玉丼だよ。西名ちゃんは知ってる?」

ああ、クニチカとナオキは人と接するのが同じくらい上手なんだね。そう思いながら頷き、これまでならそこで終わらせていたけど、一言付け加えた。じいちゃんの顔を思い出しながら。

「名前だけ。食べたことはない」