〇 学校・校門前(放課後)

学生1「あれって……」
学生2「誰? すごいイケメンだけど……」
紀菜子「……うん?」

辺りの騒ぎに、怪訝そうな表情を浮かべる紀菜子。
騒ぎが気になって、人だかりができている所の様子を伺う。

紀菜子「あっ……え?」

人だかりの先にいる魁聖に気付く紀菜子。
それと同時に、魁聖が紀菜子を見つける。

魁聖「紀菜子ちゃん!」
紀菜子(か、魁聖さん……そんな風に声をかけたら)

笑顔で手を振る魁聖。
それに頭を抱える紀菜子。

学生3「あの子?」
学生4「誰?」
学生5「確か、一年生……」
紀菜子(ほら、やっぱりこうなる……)

周囲の視線が、紀菜子の方に向く。
その視線に気まずい顔をする紀菜子。

魁聖「紀菜子ちゃん?」
紀菜子「か、魁聖さん……」

魁聖に呼びかけられて、紀菜子が駆け寄る。
焦ったような顔をする紀菜子に対して、怪訝な顔をする魁聖。

魁聖「どうかしたのか?」
紀菜子「と、とりあえず目立たない所に……」
魁聖「ああ、それなら駐車場に行こう」
紀菜子「い、いいですけど……」

魁聖の言葉に、困惑する紀菜子。
二人は、駐車場の方に歩き始める。


〇 学校・駐車場(放課後)

駐車場に停まっているバイクに手を触れる魁聖。

紀菜子「これ、魁聖さんのバイクなんですか?」
魁聖「ああ、まあ正確には親父のバイクなんだが……」
紀菜子「これに乗ってここまで?」
魁聖「そういうことになるな。ほら、これが免許」
紀菜子「迎えに来るって、こういうことだったんですね……って、そうじゃなくて」

紀菜子に二輪の免許を見せる魁聖。
それに感心する紀菜子。しかし、すぐに首を振る。

紀菜子「困ります。あんな風に校門に来られたら」
魁聖「しかし、紀菜子ちゃんを待つのはあそこが一番よかったと思うんだが……」
紀菜子「そうかもしれませんが……でも困るんです。魁聖さんは目立ちますから」

魁聖の言葉に、頭を抱える紀菜子。
すると魁聖の表情が、少し曇る。

魁聖「そうか……それは確かに、配慮が足りていなかったかもしれないな。俺の髪は目立つ訳であるし」
紀菜子「あ、いえ、髪の問題ではなくて」

魁聖の様子に、慌てる紀菜子。
魁聖の言葉を、必死に否定する。

紀菜子「か、魁聖さんはかっこよくて大人っぽい人ですから。私の親戚には見えないだろうし、変に関係を疑われかねないんです」
魁聖「む……そうか。紀菜子ちゃんにそう思われているというのは嬉しいな」
紀菜子「そうじゃなくて。いや、そうなんですけど、重要なのはそういうことではなくて」

笑顔を浮かべる魁聖に、頭を抱える紀菜子。

魁聖「まあ、紀菜子ちゃんが嫌だというなら、今後は控えるとしよう」
紀菜子「わ、わかってもらえたなら、いいんですけど……」
魁聖「さてと、それじゃあ行くとしようか」

バイクの後ろを軽く叩く魁聖。
そこで魁聖の視線が、紀菜子の足に向く。

魁聖「しまった。迂闊だったな……それじゃあ、バイクには乗せられないか」
紀菜子「ああ……」

自分の足に気付いた紀菜子。

(素足は流石にまずいってことかな……でも)

魁聖のバイクを見つめる紀菜子。
そこで、あることを思いつく。

紀菜子「そ、それなら体操服があります」
魁聖「体操服?」
紀菜子「足が隠れれば、大丈夫なんですよね?」
魁聖「ああ、それはそうだが……」
紀菜子「それなら、少し待っていてください」
魁聖「き、紀菜子ちゃん」

手を伸ばす魁聖。
それを気にせず駆けて行く紀菜子。

紀菜子(二人乗り……やっぱりしてみたいよね)

嬉しそうに笑顔を浮かべながら駆けて行く紀菜子。


〇 町中・二人でバイクに乗って(昼)

ヘルメットを被って、魁聖に捕まる紀菜子。
バイクが風を切り抜ける感覚を肌で感じながらも、前方の魁聖のことを気にする。

魁聖「紀菜子ちゃん、本当に家には寄らなくていいのか?」
紀菜子「あ、はい。二度手間になってしまうので」
魁聖「別に俺はいいんだが……元々そのつもりで来た訳だしな」
紀菜子「いえ、本当に大丈夫ですから」

信号待ちの際に、会話を交わす二人。

魁聖「紀菜子ちゃんは人が良すぎるな」
紀菜子「そんなことはないですよ」
魁聖「まあ、そういうことなら店に向かわせてもらうとしようか」

魁聖のバイクがゆっくりと走り始める。
風を切る感覚に笑顔を浮かべる紀菜子。


〇 美容室・店内(昼)

魁聖「……うん?」

店に入った魁聖が、動きを止める。
それに少し驚く紀菜子。店内を見渡して、一人の男性が立っていることに気付く。

シャーリー「……あら? 帰って来たのね」
紀菜子「……え?」
シャーリー「あらあら、こんな可愛い子が同伴なんて、魁聖もやっとそういうことに興味を持ったということかしら」

男性の言葉に、驚く紀菜子。
それに対して、笑顔を浮かべる男性。

魁聖「シャーリー、勘弁してくれ。この子は前から話していた紀菜子ちゃんで……」
シャーリー「ふふ、わかっているわよ。あなたが紀菜子ちゃんね? 私はシャーリー。この美容室の店長よ」
紀菜子「あ、小宮紀菜子です」

魁聖とシャーリーの顔を困惑しながら交互に見る紀菜子。
それに対して、笑顔を浮かべる魁聖とシャーリー。