「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん!、お勉強なの?桜と遊んで!』

「桜と遊んで!」

学校から帰ると大きな家にいつも一人、友達よりも孝ちゃんの側に居たい。

そんなわがままを言えばお手伝いさんに、止められた。

さみしくて、帰ってきたお兄ちゃんの背中について行く。

どうしてもわがままを言いたくなって……

お母さんやお手伝いさんに『将来立派な医者になるために勉強の邪魔は絶対ダメ』

ピシャリと言われた、小さな私は難しいことは分からない、ただお兄ちゃんの手と繋ぎたいだけ。

ただ側に居たいだけ、それだけなのに。

小さな私の頭にお兄ちゃんの大きな手がふわりと触れる。

「少しだけ待っていて」

お兄ちゃんが部屋のドアを開け、スッと入って行く、ドアが小さな音を立て閉まる。

何故かそれが何かの合図のように思えて、それからお兄ちゃんと呼べなくなった。

私は部屋に閉じこもり孝ちゃんへ声を掛けることも止めた。

邪魔をしてはいけない。

邪魔をしてはいけない。

朝からダルい、誰もいない家お父さんもお母さんも病院で忙しい。

リビングのテーブルにはこんがりと焼けたトーストがいつものように用意されている。

フルーツやスープも。

食べたくない、それでもトーストを一口食べて無理やり飲み込む。

ダルい、ダルい、だるい!

熱い、熱い、熱い、苦しい、苦しい。

学校へ行けない…

ふらつく体を支えながら階段を登り、部屋のベッドへ倒れ込む。

病院では苦しい人にお父さんと、お母さんが傍に居てくれるのに、桜にはいない。

桜も苦しいのにお母さん…

無意識に大きな手をギュッと握りしめる。

「桜、桜、もう大丈夫だから、大丈夫だよ」

苦痛に歪んだ顔はあたたかい、ファッとしたもに包まれる。

安心する何か…

きっと絵本で読んだ神様かも、桜はきっと神様の元へ行くんだ。

悪い子だから…

孝ちゃんごめんなさい、もうわがままは言いません。

立派はお医者さんになってね。

孝ちゃんのお嫁さんになりたかったです。

スッと冷たいものが流れ落ち私はゆっくりと目覚めた。