漆黒の国旗が段々と下に降りてくる。
それと同時に桃色の国旗が上へと上がる。

歓喜の声が上がる。
この広場に入り切らないほどの人が大歓声を奏でている。
何分経ってもその声が止む様子はない。

私はその光景を見ていることしか出来なかった。

自室のドアにコンコンとノック音がした。
渋々、といった感じか。
私は後方へと振り返る。
歩幅小さめに母が部屋に入ってくる。
今更後悔しても遅いというのに。


「逃げましょう」
「どこへ?」


こんなことになってしまって、まだ逃げようと考えているだなんて、我が母親ながら失望してしまう。

元はと言えばこちらから仕掛けた争いだった。
ここ『黒の国』は今この瞬間を持って『桃の国』の領土となった。
この争いに勝ち目がないことを私は分かっていた。

無能な父上、母上。
欲が勝ってしまったのだろう。
私は何度も戦争を止めるよう迫った。
でもその声は1ミリたりとも、届くことは無かった。


「ほ、ほらっ!…あなた金の国の第一王子と仲が良かったでしょう?っ、…今から行けば」
「よくそんな甘ったれたこと、言えるものですね。」

私は冷たい視線を無様な顔をした母上へと向けた。
これが一国の女王だなんて。
まぁもう女王なんて位はないのだけれど。


「ねぇ…、ねぇ…私、ここで、死ぬなんて……」
「よくそんな口がきけますね。元゛女王”様。」