「桜井さん、担任が呼んでたよ。早く行ったほうがいいかも」
「え? ……あ、うん。わかった」
私は、その場で誰に向けてかよくわからないような会釈をして、ささっと間をすり抜けた。
そして、ポカンとしている先輩たちを振り向いて確認することもなく、ただ久我くんの後ろについてスタスタと歩き続ける。
「く、久我くん。わざわざ呼びに来てくれてありがとう」
校舎に入り、廊下を少し進んだところで私は勇気を出してお礼を伝えた。
久我くんはいつもの無表情顔で振り返り、無言のままこちらを見る。
「あ、じゃあ。私は職員室に……」
「ごめん。担任に呼ばれてるって嘘なんだ」
「え……?」
「桜井さん、困ってたみたいだから。嘘ついて連れてきちゃったけど、大丈夫だった?」