ゆうなは、下へ降りていった。後ろから4人もついてくる。
 橋のところに田沼はいた。田沼の背中が見えた。ぼーっとしている。
 「何ぼーっとしてんだ、あいつ」
 と、ゆうな。ゆうなは、橋に近づいた。田沼がこっちを見た。
 「あ、田沼先生」
 と、ゆうな。
 「ん」
 ゆうなは橋に入った。
 「せ、先生」
 「なんだ。君、一人か」
 「ああ、そうなんです。一人で田沼先生に会いたくて」
 実はほかの4人は見えないとこに隠れていた。
 「ん」
 「実は田沼先生に二人だけで相談が・・・・・・・」
 「二人だけで・・・・・・」
 「そうなんです。二人っきりで」
 と、ゆうなはかわいくいった。
 (ふふふ、私のお芝居はどうだ、田沼)
 「二人っきり・・・・・・」
 と、田沼はゆうなをみつめた。
 (ふふふ、田沼の野郎、まんまと私のペテンにはまったな)
 「それってえ・・・・・・」
 と、田沼。
 大木の陰で4人はスマホでゆうなと、田沼の動画を撮っていた。
 「おお、いい感じ」
 と、ミナミが小さい声でいった。
 「あれか、進学とか、勉強のことか」
 と、田沼。
 (あちゃあ、失敗。でもいいや)
 と、ゆうな。
 「そ、そうなんです。できれば田沼先生と二人っきりでご相談がしたいと」
 「そうか」田沼は北の方を向いた。「向こうに人気のない林がある。そこで話すか」
 (やった。うまくいった)
 ゆうなは、心の中でガッツポーズした。
 「やった」
 大木の陰でミナミがいった。
 「じゃあ、ついて来い」
 と、田沼はいって、橋の北を出た。階段を上り、西へと続く坂道へ出た。横切ると、また階段があり上っていった。ゆうなはついていった。階段を上ると、広場があり、北へと続く道があった。田沼は歩いて行った。林の中へ入っていった。4人も尾行した。
 田沼がとまった。ゆうなも止まった。4人は大木に隠れた。
 田沼は見回した。4人はぎくっとなった。
 「ここならいいだろう」
 と、田沼。
 (うまくいった)
 ゆうな。
 田沼はゆうなと向かい合った。
 ミナミは、スマホで動画を撮った。
 「で、話ってなんだ」
 と、田沼。
 「あのう、実はあ」
 と、ゆうな。ゆうなは、恥ずかしがっているふりをした。
 「私い、田沼先生のことがあ、好きなんです」
 ゆうなは目をつぶっっていった。
 (ふふふ、見たか、私のペテン)
 「おお」
 と、ミナミ。
 「ああ、そうか。俺のこと好きか」
 と、田沼。
 (え)
 「まあ、女子生徒に嫌われまくっているが、まさか好きっていうもの好きな生徒もいるんだな」
 (うわあ、その好きじゃねえよ)
 「あの、そうじゃなくてえ」
 と、ゆうな。
 「ん」
 「あ、いや、ですから、私ー、田沼先生のことが、なんていうかあ、男として好きっていうかあ」
 「ん」
 「あ、いやだから、あのう。(みなまでいわせんじゃねえよ)そのー、その好きじゃなくてえ、そのお」
 田沼はため息をついた。
 「わかった。恋愛とかそういうのだろう」
 と、田沼。
 「そう、そうなんです。私、田沼先生のことが好きになっちゃって」
 と、ゆうな。
 「え」
 と、田沼。
 ゆうなは田沼をみつめた。
 田沼は目をつむり、息を吐いた。そうして目を開いた。ゆうなをみつめた。
 「実は俺も、前からゆうなのことが好きだった」
 「ええええええええええ」
 と、ゆうな。
 「えええええええ」
 4人もびっくりした。
 「でもなあ、ゆうな、俺と君は先生と生徒。それに君はまだ成人年齢18歳に達していない」
 「はあ」
 「だから、今はつきあえねえ」
 「はあ」
 「つきあうなら、卒業してからだ。それまで待てるか」
 田沼は真剣な面持ちでいった。
 「えええええええええええ」
 「卒業まで待ってほしい」
 と、田沼。
 「は、はい」
 田沼は目をつむり、息をはいた。そうして目を開いた。
 突然、田沼は笑い出した。
 (え)と、ゆうな。
 「おい、ゆうな。君、俺をペテンにかけようとしたろう」
 「え」
 「俺に告白してペテンにかけようとしたろう」
 「ええええええええええ」
 ゆうな。
 田沼は4人が隠れているところに向かっていった。
 「おい、そっちのやつら。隠れてるのわかってるぞ」
 「ええええええええええ」
 と、4人。
 「大木の陰に合わせて隠れているのは、お見通しだ。大木から出ろ」
 4人は大木から出た。
 「これって・・・・・・」
 と、ミナミ。
 「田沼、あ、いや、田沼先生のペテン!」
 と、芽亜里。すると、また田沼は笑い出した。
 「その通り。君らのペテンを見破って、逆に君らをペテンにかけようとしたのさ」
 「ええええええええええええええ」
 と、5人。
 「まんまと君らは俺のペテンにひっかかったわけさ」
 5人は顔を見合わせた。
 田沼は5人をにらみつけた。
 「君らの罪は大きい」
 「えええええええええええ」
 と、5人。
 「ど、どうしよう」
 と、ゆうな。
 「よくもこの田沼をペテンにかけられると思ってくれたな」
 「え」
 と、ゆうな。
 「君らのみえみえのペテンにひかっけられると思われるなんて、この田沼もずいぶんなめられたものだ」
 「え」
 と、5人。
 「俺のことをペテンにかけられるとなめた君らの罪は大きい」
 「ええええええええええ、そっちい」
 と、ゆうな。
 田沼はまた笑い出した。
 「え」
 と、5人。
 「まあ、ちゃんと仕返しはしたし、今日はなんだ、ちょうど四月ばか、エイプリルフールだし、いいってことにするか」
 と、田沼はいった。
 「え」
 と、5人はきょとんとした。
 「田沼、いや、田沼先生はペテン師に決定え」
 と、ここながいった。6人は笑った。