文化祭の時節が近づいた。
 廊下。1年2組の札。
 1年2組教室。
 「ということで、文化祭、何やるか、君らで決めてもらう」
 と、田沼がいつものように乱暴にいった。
 (田沼の野郎、いつも通りむかつくなあ)
 と、ゆうな。
 「ヤンキー」と、女子たちが口々にいった。
 「あんなヤンキー」
 と、隣の橋本ここながいった。
 「はあい」
 と、ここなが手をあげた。
 「お、ここな、何かあるのか」
 と、田沼。
 「あ、ここなんだ」
 「ここなんが何かいうぞ」
 と、男子たち。
 橋本ここなは、学園のアイドル的存在なのだ。愛称「ここなん」で通っている。
 「私い、メイド喫茶とかいいかなあって」
 と、ここながかわいくいった。
 「メイド喫茶」
 と、男子。
 「それ、すごいいい」
 「ここなんのメイド喫茶かあ」
 と、男子たちが口々にいった。
 「メイド喫茶、いいかも」
 と、女子。
 「メイド喫茶か」
 と、いって田沼は黒板にメイド喫茶と書いた。
 「他あ、なんかあるか」
 と、田沼。
 シーンとした。
 「なんだ、ほかになんもねえのか」
 シーン。
 「他、ないのか」
 と、田沼が強くいった。
 「メイド喫茶でよくなくね」
 と、ミナミがいった。
 「うん」
 「ここなんがメイドさんになるなら」
 と、男子。
 「メイド喫茶でいいよなあ」
 と、男子。
 「賛成え」
 と、男子たちが一斉にいった。
 「うちらもメイド喫茶でいいと思う」
 「うん」
 女子も口々にいった。
 「じゃあ、全員一致でメイド喫茶だ。めずらしくみんな一体だな」
 「そのみんなにあんたは嫌われてるけどね」
 と、ゆうながひとりごちた。
 「ん、ゆうな、なんか言ったか」
 と、田沼。
 「いえ、何も」
 ゆうなはごまかした。
 「じゃあ、あとも君らで考えろ」
 「はあい」
 と、生徒たちが言った。
 「よし、じゃあ」
 と、つんつん頭の男子、級長が前へ出た。田沼は端へいった。
 「さあ、みんなメイド喫茶に関して意見を出し合おうじゃないか」
 と、級長。
 「男子たちは、料理作ったり、準備したり、片したりでいいんじゃない」
 と、女子。
 「えええええええええええ」
 と、男子たち。
 「だって、女子はみんなメイドさんの恰好した店員さんだから」 
 と、女子がいった。