安部ゆうなは今日も遅刻した。
 「遅刻だ、遅刻だ」
 ゆうなは走った。ゆうなは、黒髪、耳の上ツインテール。ラビットスタイル。黒いハイカット丈靴下をはいていた。ローファー。
 自由学園高校に到着した。校庭を走った。玄関へ入り、上履きをはく。廊下を歩いた。階段を駆け上がった。
 教室の前。
 1年2組の札。
 もうホームルーム始まってる。ゆうなは、後ろの扉をそーっと開けた。そうして、四つん這いになって、床をはって行った。
 教壇では田沼が話していた。
 「ん」
 と、田沼。
 「ゆうな」
 と、田沼が大きい声で言った。
 あちゃあ。ゆうなはたった。
 「もっと早く来い」
 田沼はゆうなをにらみつけていた。切れ長の目、筋の通った鼻、栗色のショートヘア、美形だが、陰険な目つきでにらんでくる。(にらんでくんじゃねえよ)と、ゆうなは思った。
 (ヤンキー)と、ゆうなは思った。
 「何してるんだ。さっさと席につけ」
 と、田沼が陰険にいった。
 「は、はい」
 ゆうなは席についた。
 はあ。何もあんない方しなくても。いやなやつ、ゆうなは思った。
 「ゆうな、田沼、いやになるねえ」
 と、隣の席の友達橋本ここながいった。橋本ここなは、淡い茶色の髪にポニーテールだった。
 「ほんと」
 と、ゆうな。
 「ん、ゆうな、なんかいいたいことあるのか」
 と、田沼。
 「え、いや、何も」
 「そうか」
 と、田沼。
 「にらみつけるやつ」
 と、女子生徒が噂した。
 「ヤンキーだよねえ」
 と、女子生徒。
 「顔だけ」
 「だよねえ」
 「かっこだけ」
 「性格悪いよね」
 「顔以外何もないよねえ」
 と、女子生徒が口々にいった。
 「おい、私語を慎め」
 と、田沼が陰険にいった。
 女子生徒は田沼をにらみつけた。