「なに?」


「……いや、何でもないです」



背中に回った腕の力が緩んだから、悧來と私の間に風が割って入った。


刹那、もう一度抱きよせられ、急な事に私の身体は彼に預けられるかたちになる。


私よりも圧倒的に背の高い悧來に、私の身体はすっぽりと収まった。


瞬間、頭に何か柔らかい感触がした。




本当に一瞬のことで、何もなかったように身体は離される。



「……さ、帰りましょうか」


「……うん」



あの後、どうやって帰ったかはぼんやりしか思い出せない。


ただ鮮明に思い出せるのは、あの感触。




いつもよりも優しく大人っぽい笑顔を浮かべた悧來と別れたあと。



「……え」




頭にキスされたことに気づいて、急に頬が熱を帯びた。



抱きしめられた身体が離されたとき、悧來の心地いい体温が離れたことを名残惜しく思ったのは、風が冷たかったせいにしておく。