制服を着おわったタイミングで部屋のドアがコンコン、と2、3回ほどノックされた。


「湊大?起きてる?」


母さんだ。


両親は僕が小学校3年の時に離婚していて、僕は母さんに引き取られて以来女手1つでここまで育ててくれた。


母さんはいくつものパートをかけ持ちして朝から晩まで働いていた。


それでも僕は笑顔で過ごせていた。


それは──母さんはどんな時でも笑顔でいたからだ。


仕事もあるだろうに、家の事をできる限りやってくれていたし僕の事をめいっぱい可愛がってくれた。



僕は小さい頃に母さんが働いている姿を1度だけ見に行った事がある。



母さんがパン屋で接客をしていた時。
母さんはお客さんと笑顔で接し、なにか質問をされても嫌な顔ひとつせず応えていた。



母さんと話しているお客さんも自然と笑顔になっているようにも見える。



この時僕は驚いた覚えがある。



母さんと一緒にスーパーに買い物に行ったことが何回もあるが、店員は特に笑顔を向けるという訳でもなく、ロボットのように淡々と仕事をこなす人ばかりだったから。