次の日学校に行くと、もう既に藺上さんは避けるべき者となっていた。


「ね、一組の藺上って知ってる?」

「あー。なんか素行が悪いって奴だろ?」

「いや、でもめっちゃイケメンだよ!!」

「だからなんだよ。顔に性格が伴ってなきゃ意味ないだろ」


廊下を歩いているだけであまりよくない会話が聞こえてくる。


「羽衣」

「きゃっ、ぁ!」


突然声をかけられて、私は悲鳴をあげた。


「またやってる。本当に大変な子だね」


藺上さんであった。


「い、藺上さん、後ろから声かけるのやめてもらってもいいですか……?」

「まぁ、できたらね。……てか」


藺上さんは、不自然に言葉を切ると黙り込んだ。


「けど、なんですか?」

「いや、羽衣は俺を避けないねってだけ」

「いや、別に藺上さんは悪いことしてないので。ただ理由もなく避けるんじゃ、いじめと一緒です」

「ふぅん。あっそ。本当に、羽衣は“模範解答”ばっかりだね」


藺上さんの言葉には棘があった。


「模範解答って……。事実を述べてなにが悪いんですか。他の人達が避けている藺上さんは、あくまでも昨日のたった一面だけです。良いところなんて、知ろうともしてないじゃないですか」

「あれが俺の全てだって言ったら? そしたら羽衣は俺を避けるの?」

「たったあれだけでは避ける理由ではありません。藺上さんの気持ちを考えなかった周囲の人───もちろん私も含みます───にも非があります」


私が答えると、藺上さんはきれいな顔をクシャリと歪めて私を見た。