考えながら俯きがちで歩いていると、誰かにぶつかって止まった。


「あ、ごめんなさい」


顔を上げると、ちょうど考えていた人物だった。


「羽衣って大変だね」


私を見てそれだけ言うと、藺上さんはふい、と顔を背けて廊下を歩いていってしまった。


“大変”って何が?
てか、そもそも……“羽衣”?

顔に熱が集中する。
男性に下の名前で呼ばれたことがなかったからすごく気恥ずかしい。
当の本人はもう行ってしまったし。

でも、そのおかげで、不安だった学校生活が少しだけど楽しみになってきた。