「……羽衣の答えって、本当に気に障るね」


あと少しで泣いてしまいそうな、震えた声。


じゃあ、と去って行った彼の姿は、私が顔を上げたときには遠ざかっていた。


“羽衣の答えって、本当に気に障るね”

そう言った彼の声音が、表情が、やけに脳内に残る。


「感じ悪……」


少し離れたところで見ていた生徒がボソリと呟く。


私が言えたことじゃないけど、君が藺上さんの何を知っているのか、と、君は藺上さんの全てを知らないでしょう、と詰め寄りたくなる。


何が彼の気に障ってしまったのだろうか。

わからない。

お父さん以外の男子と近い距離で話すなんて、幼稚園ぶりだ。


だからこそ、怖かった。

彼を傷つけてしまいそうで。





「羽衣ちゃ〜ん!! 一緒にご飯食べよっ!」


お昼休みになり、クラスの女子から声がかかった。


「ごめんね……! 今日はちょっと無理なんだ。また明日でいい?」

「わかったー! こっちこそ急にごめんね!」


どうしても誰かと話す気にはなれなくて、私はお弁当を持って教室を出る。

目指すは屋上。


屋上なら、きっと人はいないだろうと、そう思った。


───が、


「羽衣じゃん」


屋上の扉を開けた先には、藺上さんが立っていた。


「逃げないで」


無意識のうちに足が動いていたのだろうか。

藺上さんが感情の起伏のない声でそう言った。