「ではリザ王女、私はルビウスに──」
「えぇ。無罪放免、とはいきませんが、せめてフローリアンの地を再び踏めるよう、私も計らいましょう」
「っ……本当に、ありがとうございます……っ」

 そう深く頭を下げるフロウ王子と同じように、ルビウスも続いて頭を下げた。
 そしてアルテスに連行され、これから騎士団本部へと移される。

「あぁ……。セイシス殿」
「ん?」

 連行される途中、セイシスを呼んだルビウスは、彼の耳に顔を寄せ、何かを伝えた。
 何を言っているのか全く聞こえないけれど、二人に内緒の話をするほどの接点なんて何かあったかしら?

 するとたちまちセイシスの顔は真っ赤に染まり、その場で動きを止めた。
 そしてルビウスはそんなセイシスを置いて、アルテス、フロウに連行され部屋から出ていった。
 一体何を言われたのかしら、セイシス。

「っ……」
 ぐらり。
 さっきまでの緊張から解き放たれた瞬間に、私の身体が大きく揺れた。
 っ、しびれが……っ。
 これはまずい。
 手足だけじゃない、喉や胸の方にまで痺れが回って、ただただ息苦しい。

 もう少し。
 ちゃんと最後まで立つのよ。
 私はこの国の王女リザ・テレシア・ラブリエラ。
 稀代の悪役王女でしょうっ!!
 こんなところでくたばってたまるもんですか!!

「カイン王子、サフィール、手伝っていただいて、ありがとうございました」
 何とか笑顔を取り繕うと、私はずっと調査にあたっていてくれたカイン王子とサフィールに礼を述べる。

「いえ、たいしたことはしていませんよ。ただちょっとお部屋を荒らしただけですし」
「えぇ。すんなりと罪も認めてもらいましたしね」
 レイゼルにもお礼を言っておかないといけないわね。
 重要な罪の裏付けになる証言をよこしてくれたのだから。

「さて……、一応は主役だし、パーティの最後の挨拶ぐらいはしに行かないとね。行くわよ、セイシス」
「は、あ、あぁ……」

 私は未だ惚けたままのセイシスに声をかけると、彼らを連れて再び誕生日会場であるホールへと戻り、主役として最後の挨拶を済ませた。
 次第に強くなるしびれと動悸に耐えながら──。

 ***

「っも……無理……っ」
「リザ!?」
 部屋に戻るや否や、私はその場に倒れ込んでしまった。

 ピリピリとした手足のしびれは鈍く重いものへと変わり、ホールを出るころには立っているのがやっとだった。ここまで耐えた私を褒めてほしい。

「っ……はぁっ……苦し……っ」
 呼吸ができない。
 手も足も、まるで何か鉄球のような重りでもつけられているように私の脳からの動けという指令を無視し続ける。

 やっぱりこれは……毒……?
 でも私、何も食べたり飲んだりしていないのに……。
 花だって会場に飾らないようあらかじめ指示をして──……っ。
 どんどん意識が遠のいていく。
 必死につなぎとめようとするのに、引っ張られる。

「リザ!!」
 傍でセイシスの焦ったような声がする。
「くっ……あの野郎……。待ってろ、すぐに楽にするから……!!」

 セイシスは部屋に飾られていた花瓶からレームの葉を自分の口に含み咀嚼すると、私の唇へとそれを運んだ。

 いつも私の名を呼ぶ、彼の口で──。

 そこで私の意識はぷつりと切れた。