「それでリザよ。すべての婚約者候補と会ってみて、どれか気に入ったものは──」
「おりません」

 即答―っ!!
 だって仕方ないじゃない。
 気に入るも何も、その気がないんだもの。
 恋? 恋よりも恐怖だわ!!
 お父様の手前、腹をくくって愛はしたけれど、一回目の記憶のせいで命の危険にさらされる恐怖しか感じない!!

「リザったら……そんなはっきりと……」
 お母様が口に運ぼうとしていたひと欠けのパンを皿に置くと、困ったように頬に手を寄せた。我が母ながら、動作一つ一つが絵になる方だ。

「まぁ良い。まだもうしばらくフロウ王子も滞在されるし、カロン王子もお前との貿易取引のためまた近く隣国から来られることになっている。ディアス公爵家のサフィールも、特別授業についてお前に報告をしに来たいとも言っているようだし、アルテスもしばらく騎士団の遠征もない。ゆっくりと交流を深め、見定めると良い」

 すでに一回目で見定め切ってるから却下してるんだけど……。
 交流なんて深めたくない。

「お父様。結婚さえすれば、候補者でなくとも良い、のですわよね?」
「ん? あぁ、そうだな。よほど問題のあるものでなければ、良かろう」

 よし。言質取ったわ。
 ならばなんとしてでも、早いうちに自主規制音にならない男性を探し出して、婚約に持ち込むしかない……!!

 私はふっと口元に笑みを携えると、持っていたフォークとナイフを皿に伏せ、「わかりました」と父を見上げた。
「善処いたしますわね」
 そう言うと、私は父に一礼し、セイシスを引き連れて部屋から出ていった。


「──で? どうする気だ?」
 静かな廊下に靴音を響かせて歩きながら、セイシスが尋ねる。

「婚約者候補とは結婚したくないんだろう?」
「えぇ、もちろんよ。死にたくないもの」
「いや、だから……まぁいい。で? 策はあるのか?」

 呆れるセイシスに私は立ち止まり、ニヤリと笑った。

「もうこうなったら誰でも良いわ。たとえ老いぼれたおじいさんでも、求愛の言葉が聞こえたならば結婚しようじゃないの!!」

 数内当たるってやつよ!!
 もういっそそれがどんな年齢でも、どんな顔でも良いわ!!

「いや、じーさんは世継ぎ問題の解決にはならないんじゃ……」
「うっ……。と、とにかく!! 求愛の言葉が届いた人と婚約するわ!!」
 贅沢は言ってられないもの。

「届く? あぁ、心に響く、みたいな?」
「そ、そう!! そんな感じよ!!」

 危な~~~~~っ!!
 セイシスは私のこと知らないんだった!!

 私が二度目の人生だってことも。
 二度目では何やら変なスキルが備わっていたこと。
 あまりにナチュラルに私のそばにいて、私を補佐してくれるから、ついいろいろ喋ってしまうのよね。

 一回目とか二回目とか、変なスキルとか話してしまえば絶対に馬鹿にされ続けるわ……!!
 セイシスだもの。間違いない。
 一生小馬鹿にされ続けるのはごめんよ。
 気をつけなくちゃ。

「でもなぁ……お前、本当にそれでいいのか?」
「何がよ?」
 なんだか不服そうなセイシスに首をかしげると、セイシスは難しい顔をして口を開いた。

「いや、さぁ……。それでお前が幸せになれなかったら……」
「……仕方ないじゃない」
 思わず出てしまった、冷たく平坦な声。
 虚無を通り越したそれに、目の前でごくりと息をのむ音がした。

 そう、仕方ないんだ。
 生きていられるだけで幸せだと思わないと。

 愛していないわけではなかった。
 夫となったからには、愛情を注ごうと、大切にしてきたつもりだった。
 それがあの結末だ。
 私はもう、あんな思いはしたくはない。

 なのにこの男は──。

「……俺は嫌だ」
「え?」
「お前が幸せになれない結婚は、多分、そばで見ていてイライラする」

 ──何て顔してんのよ。

 あんたのことじゃないのに。
 まるで自分のことのように苦しそうに。

「幼馴染兼保護者としては、俺以上にお前をしっかり見てやっていない奴にはまかせられない、っていうか……」
「セイシス……そんなに私のこと……」

 保護者というのは解せぬけれど、そこまで私のことを思っていてくれているだなんて……!!
 なんだか感動したわ。私、良い側近を持ったわね……!!
 ちょっと口うるさいこともあるけど。

「ありがとうセイシス……!! 大丈夫!! その役目は今までもこれからもセイシスだから!!」

「────は?」

 セイシス以上に私をわかってくれている人はいないのは、私もわかってる。
 でも大丈夫。
 セイシスはずっと私の護衛として傍にいるから。
 だって一度目だってそうだったもの。

「これからも頼りにしてるわ!! 相棒!!」

 にっこりと笑って言った私の言葉に特大級のため息がかえってくる。
 なぜだ。

「はぁ~~~~~~……あぁ、わかったよ。俺のトンデモ娘」