「リザ王女!! 僕と、僕と結──(ピーーーーーーー)!!」

 はい没ーっ。

 このラブリエラ王国の第一王女である私、リザ・テレシア・ラブリエラは美しい。
 金色の輝く長い髪。
 サファイアのような美しい色の瞳に長いまつげ。
 白い肌、スタイルだって文句なし。

 どんな男性も私の虜になった。
 私はただ一人の王女である重責から逃れるように、王族としての責務を果たすよりも、戯れにたくさんの見目麗しい男性達と甘美な時間に耽った。
 求婚された数だって、両手では数えきれないほど。
 
 我が国は王族の重婚が認められている。
 その結果、私の夫は王室史上最多の5人となり、ついたあだ名は【稀代の悪役王女】。

 そう、一度目の人生は──。


 今、私は二度目の人生を生きている。
 一度目の人生、私は殺されたのだ。自分の夫たちによって。
 私が一人の男に心奪われてしまったことをきっかけに、嫉妬に狂った夫たちは私を殺して自分たちも自害した。
 死んでから魂だけの状態で上の方から客観的にその様子を見ていたけれど、まさに地獄絵図だった。
 まぁ、発見した侍女たちが一番不憫だったろうけれど。

“もう一度だけチャンスを上げましょう。真実の愛を見つけて、どうか幸せに”

 そんな声が聞こえて目が覚めると、私は赤ん坊の姿になっていた。
 そして目の前には少し若返ったお父様と、私が幼いころに病気で亡くなったお母様がいた。

「人生のやり直し、ね」

 もうあんな思いはしたくない。
 今世では極力男性と関わらないように生きようとしたけれど、どんどん美しく育っていくにつれて良い寄る男は増えてくる。
 そして求婚するのだ。

 こんな風に。

「私と、けっ──(ピー―――――)」
 はいこの人も没ー。
「私と一緒にピーをピーでピーてください!!」
 ピーばっかりで危険な香りしかしないわ!!

 人生二度目。
 私にはスキルが与えられていた。

 その名も【プロポーズ無効化】スキル。

 求婚や求愛の言葉を最後まで聞くことができず、肝心な言葉が自主規制音となって遮断されてしまうのだ。
 これも一度目の人生の呪いなのか何なのか……。

「はぁ、疲れた」
「お疲れ様、リザ」
「毎日毎日、飽きもせず求婚者は絶えないってどうなってるのかしら。ていうか、もはや求婚ゲームになってない?」

 国内にとどまらず国外の王侯貴族からも来るのだから、もうそろそろ全世界がらみの嫌がらせじみた遊びにしか思えなくなってきた。

「ま、いつか飽きるだろ。お前、外見だけは男に好かれやすい外見してるからな。外見だけは」
「うっさいわねセイシス。不敬罪で首飛ばすわよ」
「首だけになっても護衛は続けてやるから、それはそれで誰も近づかなくなっていいかもな」
「私が嫌だわ!! 首に付きまとわれるとか!!」

 セイシス・マクラーゲン。
 公爵令息でありながら私の護衛を買って出た変わり者の幼馴染。
 憎まれ口ばっかり叩くし、ほかの男性たちのように私を手放しで褒め称えるようなことはしないし、何とも絡みにくい独特のマイペースさを持ってはいるけれど、彼といる時間は嫌いではない。
 気取ることなく、私らしくいられるから。
 幼馴染の存在ってすごい。

「で? お前自身はどうなんだよ」
「何が?」
「結婚。する気あるの?」
 鋭く尖った黒曜石のような混じり気のない黒い瞳が私を探るように見る。

 結婚ねぇ……。
 私の脳裏をちらつくあの地獄絵図。
 無理無理無理無理!!
 もうあんなの見たくないわ!!

「したくない、のが本音。私、殺されたくないもの」
「お前結婚を戦いと勘違いしてないか? どこの戦闘部族だよ」
「うっ……」

 だって事実だもの。
 私は、自分が殺されるのも嫌だけれど、自分が愛した人を殺されるのも嫌だ。
 前世、私がたった一人愛した人も、五人の夫たちによって殺されたのだから。
 だから私は、誰も愛したくない。
 だけど立場上結婚しないわけにはいかないから、結婚はしなきゃいけないんだろうけれど、いかんせん、肝心な求婚が自主規制されるんだからもうどうにもならない。

「陛下が困ってたぞ? 『リザはどんな男も首を縦に振ろうとしない。このままではこの国は後継者がいなくなってしまう』ってな」
「それならいっそ側妃でも作ってもう一人二人子をもうければいいのに」

 重婚が認められているのにうちの父はいつまでも母だけだ。
 その母も、私を産んですぐに子を産めない身体になってしまった。
 当然側近たちからは側妃を進められているけれど、すべて跳ねのけているのだから、それが真実の愛というものなんだろう。
 私にはよくわからないしあまりわかりたくもない。

 ただ一度目の人生で私が小さい頃に死んでしまった母が、子どもを産めなくなっただけでまだ生きているということは一度目と違って私にとって嬉しい展開だ。
 そんな母には悪いとは思うけれど、私一人でいろんなものを背負わなければならないのは、なかなか身が持たない。
 前世と同じ重責が私を襲って、またいつ逃げるように快楽に身を投じてしまうかと不安になってしまう。

「俺は陛下を尊敬するけどね」
「え?」
「たった一人を愛し続ける陛下みたいな男に、俺はなりたいけどな」
「セイシスが……?」
 意外とロマンチストなのかしら?

 セイシスのお父様とお母様である公爵夫妻はいわゆる仮面夫婦だ。
 お互いに妻や夫以外にパートナーを持っているし、セイシスにも血の半分しか繋がらない兄弟が2人いる。
 ただそれら全員の仲が険悪ではないのだから不思議よね。
 だけどそんな家族関係だからこそ、セイシスにももしかしたら思うことがあるのかもしれない。

「ま、今は大きな子どものお守りで手いっぱいで、結婚とか考える余裕ないけどな」
「大きな子どもって誰よ!?」
「俺が随時くっついてるのお前しかいないだろうが」
「歳そんなに変わらないでしょ!?」
「はいはい、行きますよ、リザ王女様。今日は孤児院へ表敬訪問だろう?」

 はっ!! そうだったわ!!
 朝からどこぞの侯爵令息に求婚(未遂)されて疲れきって忘れてたけど、王立孤児院への表敬訪問の時間!!
 早く出なきゃ遅れちゃう!!

「セイシス!! 馬飛ばすわよ!!」
「馬車で安全運転してもらっていくぞ馬鹿」