――ギシッギシッ

そう考える間にも彼はこちらに近付いてくる。

(…土方さんに総司には会うなと言われたばかりなのに…こんなところで会うなんて…なんて運命はいつだって残酷なの…)

近付いてくる足音が聞こえるがそこから動けない自分。
変に怪しい行動をしたら余計に総司の心を刺激してしまうのではないかと思えば思うほど身体が硬直していく。

「……?」

すると、総司の表情が変わった。
どうやら総司も目線の先に誰かがいると気が付いたようで、怪訝な表情をしながら睨むようにしてこちらを見つめてきた。

(…なんて、声かければ…)

掛ける言葉が何も思いつかない。それにそもそも自分から声をかけていいかどうかが分からない。
いや、それ以上に総司と話すのが何だか怖い気がした。


「……!」

(……っ)

今、自分の存在に彼が気付いたのだと自覚した。
総司の表情が引くついたのが確認できたからだ。
それもそのはず、二人の距離は二メートルもない。月の明かりと行灯の灯りが頼りだと言っても、流石にこの距離だと嫌でもお互いが認識できる。

空蒼を視界に入れたのか、目つきが凍ったように鋭くなる。
そして、彼は存在を無視するかのように、歩く速度が速くなった。

――ザァァァァァアアアアア

冷たい秋の風が空蒼の肌をすり抜ける。
そして、総司の細くて青白い腕が風で確認できた。

「……。」

感情の無い目でこちらを見ることなく、横を通り過ぎようとする。
それを横目で確認しつつ、胸がチクリと痛むのを感じながら接触しないように壁際に寄った。

「……?」

その時、懐の辺りから何かが落ちる感覚がした。

――ボトッ

(っ……)

それと同じくして何かが落ちる音が、この静かな廊下にいつも以上に響き渡った。
空蒼と総司の間に落ちたのか、その音を聞いた総司も足を止めている。

バクバクする心臓を落ち着かせながら、気まずいのでとりあえず落ちた何かに手を伸ばす。

(っ……!!)

だが、伸ばした瞬間、青白い腕が伸びてきたかと思えば、サッとそれが目の前から消えた。
後を追うと、総司がそれを片手に持っているのが確認できる。
それを開ける素振りをすると、ピタッと動きを止めた。

「これは……」

目を細めた総司の声が静かな廊下に響く。
空蒼は立ち上がり、何が落ちたのか確認しようとする。

「…どうしてこれを貴方が持っているんですか」
「……っ」

空蒼が総司の手に持っているモノを確認しようとしていたら、急にこちらをキッと睨んで低くて冷めた声を口にしてきた。
その声が空蒼の心に深く突き刺さるのが分かる。

空蒼の事がどんなに嫌いでも、どうして持っているモノに対していちいち聞いてくるのだろう。
ていうか、そんなにいけないモノを持ち歩いていたのだろうか。
そんな覚えはないと思いながら、総司の言葉に耳を傾ける。

「また無視するんですか?どうして貴方がこれを持っているのかと聞いているのですが」

空蒼の事を睨みながらそう言う総司は、あの時助けてくれた同一人物だとはとても思えない。
それに、どうしてと言われても、空蒼にはそれが何なのか分からないし、よく見えない。
でも空蒼が持っているのに対して怒っているように見えるので、それが総司にとっては大切なモノなのだろうか。

(いや…待てよ?自分が持っているモノなんてそう多くはない…いやむしろ何も持っては……っ!)

そう考えていた時、あるモノが頭に思い浮かんだ。
それは、見られてはならない人物がいて、この目の前にいる人物に見られてはいけないモノであると空蒼はそう解釈していた。

「そっ…それは…もしかして…」

口をぱくぱくしながら、確かめるように総司に問いかける。
それに対して総司は眉間に皺を寄せながら口を開いた。