あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした




「近藤さん、よくこんな言い訳だらけの人を信頼できますね」

本当は思っていないのに、思っている事とは反対の言葉を口にする。

「ああ?そんな事お前には関係ねぇだろ」

近藤さんに聞いたのに、土方さんに答えられてしまった。
だが、よく知らない人にこんな事を言われたら、黙ってる方が無理な話か。
まして、プライドが高い土方さんなら尚更、いや…プライドが高いと言うよりは、自分の信念を貫く意思が固いと言えるだろうか。

「……。」

近藤さんは両手で顔を覆いながら黙ったまま何も喋らない。

「…そうです。俺には貴方方の関係性については何も知りませんし、関係ないです。そして、俺に関しても貴方方は何も知らない…なのに、どうして近藤さんが俺の為に泣いているのか分かりません。はっきり言って迷惑です」

「っ……」

その言葉に近藤さんの肩がビクッと反応するのが分かる。

「お前…近藤さんになんて口の利き方を…」

土方さんは空蒼の言葉が癪に障ったのか睨みつけてきた。

「…貴方がこの場をどうにかしろと言ったんです。俺はそれに従って話しているだけですが、何か問題がありますか?」
「……。」

これでいい。
これでとことん自分を突き放してほしい、こんな奴目にかけるほどでもないと。
嫌ってしまえばいい、こんなクソガキを心配した自分が馬鹿だったと。

皆がそうやって歩み寄ってくれる程、空蒼はそれを拒んでしまう。
そうしないと今度こそ、立ち直れない気がするから空蒼はこうする事しかできない。
弱い自分を守るためにはこうするしかない、そしてこんな奴を気にかけてるだけ時間の無駄だと気付いてほしい。
新選組のお荷物にはなりたくない、絶対に。

「…空蒼くん」

そう思っていたら、近藤さんが空蒼の名前を呼んだ。
近藤さんを見ると、涙は既に止まっており複雑な表情をしてこちらを見ていた。

「空蒼くんはどうしていつも…そんな悲しそうな顔をしているんだい?」
「……。」

(…悲しい、顔?)

近藤さんの言葉の意味がよく分からない。
悲しい顔とはあの悲しい顔の事だろうか、たまに近藤さんが空蒼に対してそんな顔をするが、その悲しい顔だろうか。

「空蒼くんはその場の雰囲気に慣れてきたなと思った途端に、俺達を突き放すような言動をするだろう」

近藤さんは言いずらそうにそう言葉を続けた。

なんだ、分かっているじゃないか。
ならなんで、その度に優しい言葉をかけてくるのだろう。

チラッと土方さんの方を見てみると、無表情の顔をして近藤さんの言葉を静かに聞いていた。

土方さんはこういう時こそ空気を読む。
近藤さんがこうして話したい時は黙ってその話を聞き、近藤さんがピンチになった時は助け舟を出す。
近藤さんの事を良く知り、理解している証拠だ。そんな彼らを見ていると、羨ましいとさえ思ってしまう。

「空蒼くんはどうして自分から他人と距離を置こうとするんだい?俺らの事、信用できないかい?」
「……近藤さんこそ…そんなすぐに人を信用してはいけませんよ」

近藤さんの問いかけには答えず、そう言ってニコッと微笑む。