そう言われて嫌な気分はしない。
少し、いやかなり引いてはいるけど。
すると、空蒼が笑ったことに対する睨みなのか、それとも妬みなのか、近藤さんにフラれた手拭いを乱暴に机の上に置いて、鋭い眼光をしながら空蒼を見つめてきた。
「…あの、何か?」
そんな土方さんにいつまでもやられている空蒼ではない。
言いたいことがあるならはっきりさせてもらおう。
「…元はと言えばお前が刺激するような言葉を言ったのが悪い、何とかしろ」
「……。」
何を言い出すかと思えば、今までの自分の行動を棚に上げて空蒼に全て擦り付けてきた。
(こいつ…あたしが近藤さんに好かれているのに嫉妬でもしているのか?)
土方さんを見ると、怒っていると言うよりは羨ましがっているような表情に見える。
だが、そんな事空蒼は知らない。
何でこんなに優しいのか、どうしてこんなに心配してくれるのか、どうして自分の為にここまで泣いてくれるのか、空蒼には分かりっこない。唯一分かるのは、そんな感情を向けられたって困るだけだ。近藤さんと同じような気持ちを持つ事はないし、持ちたいとも思わない。そんなの持ってるだけ無駄だ。邪魔なのだから。
だからそんな空蒼に対して土方さんが嫉妬することも、羨ましがることも、するだけ無駄。
(そう、思うんだけど…さっきから言われてばかりなのは癪に障る)
空蒼は土方さんを睨みつけた。
さっきから人を何だと思っているのか、今になって土方さんに言われてきた言葉に苛立ちを覚えた。
「…あ?何じろじろ見てんだよ、気色の悪い」
「……禿げ頭」
ぽつりとあたしは呟いた。
「あぁ?今なんて言った?俺はまだ禿げてねぇが、お前の目は節穴か?」
ああ言えばこう言い、子供とでも相手しているみたいだ。
「今は、でしょう?今は違くても将来はどうなるか分かりませんから。あぁ…でも、そんなに眉間に皺を寄せてばかりの人は将来禿げる確率が上がるとか上がらないとか…あ、すみません独り言です」
未だに睨んでくる土方さんに空蒼は冷静にそう言い放ち、にこっと微笑んだ。
勿論はったりだが、土方さんにはこれくらいが丁度いい。
「……お前、喧嘩売ってる暇あんのか?近藤さんが年甲斐もなく泣いてんだ、何とかしろと俺は言ってるんだが?」
流石新選組副長土方歳三、このくらいの挑発でも声を荒げないのか。
眉毛はピクピク反応しているが、表に出さないだけの根性はあるらしい。
「貴方はさっきから何故か俺のせいにしていますが、元はと言えば貴方が俺に早く処遇について話さなかったのがいけないのですが」
全部がとは言わないが、少しは土方さんも悪い。
「…お前が俺に聞いてこないのが悪い」
悪びれもせずそう言ってくる土方さん。
「俺から聞かなきゃ話さないんですか」
(どんな言い訳だよ…)
空蒼は呆れながら、今もしくしく泣いている近藤さんに向き直った。
