あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした




(…そう言うなら助けてよ)

さっきまでそっぽを向いて我関せずって感じだったのに、急に会話に入ってきて、もしかしたら意外とお節介焼きなのかもしれない。

空蒼は号泣している近藤さんを見つめる。

どうして近藤さんはあんなしょうもない理由でこんなに声を上げて泣いてるんだろうか。こんな恥ずかしげもなく大きな声でわんわんと。大人げもなくこんな堂々と大口を開けて思いきり泣くなんて、自分の為にこんなに泣くことないのに。

こんなんじゃ、襖も開いてるし誰かに聞かれてしまう可能性がある。
こんな姿を他の隊士に見られでもしたら、近藤さんの立場と言うか、新選組局長としての威厳と言うか、色々と危ないのではないのだろうか。

そう思い、空蒼はずっと手に持っていた金平糖に視線を移す。

(金平糖の力でも借りるか…)

「…近藤さん、とりあえず…これ食べますか」

そう言いながら、金平糖の入った和紙の包みを近藤さんの前に差し出した

「……。」

すると、空蒼の声に反応して顔を上げると目の前にある金平糖に視線を移した。

確か近藤さんは総司と同じく甘未好きらしい。
その中でもとくに饅頭が好きみたいで、京に来てからもよく食べていたという。
そんな情報を現代に居た頃に本で読んだことがあり、意外だなと思いながら空蒼も饅頭を食べていたのを思い出す。

要は、何を言いたいのかと言うと、甘未好きなら甘いお菓子を見せびらかしたらそれに釣られて泣き止んでくれるのではと思ったのだ。なので空蒼は甘未好きと言うその情報を信じて金平糖をちらつかせる。

「………うぉぉぉぉぉおおおおお!!!!!」
「……。」

どうやら効果はなかったみたいだ。

もう少しで釣られるかなと思ったが、すぐに金平糖から視線を逸らして、また声を上げて泣き始めてしまった。
甘未が好きと言う情報は間違いだったかとため息を付きながら、持っていた金平糖を懐にしまう。

(…どうしたものか)

人とあまり関わってこなかったので、こうして泣いている人のあやし方が空蒼には分からない。
逆の立場なら沢山経験してきたから分かるのだが。

「はぁぁぁ…」

すると、急に土方さんの深いため息が聞こえてきた。

「…おい近藤さん、大の大人が滅多なことで泣くんじゃねぇ…」

そう言いながら、近藤さんの傍まで移動してくる土方さん。
その手には手拭いが握りしめられている。

「それに、こんな奴のために涙を流すな勿体ない」

その言葉に空蒼の眉毛がピクリと動いた。

(……。)

「ほらこれでその涙を拭け、他の奴らに聞こえちまうだろ?」

近藤さんの肩にぽんっと手を乗せて、もう片方の手で手拭いを差し出す。
傍から見たら、子供をあやしているお父さんの図。

そんな土方さんの優しい言葉に顔を上げる近藤さん。
その光景になんだか敗北感が拭えない。

「……。」

声を上げて泣くのをやめ、差し出された手拭いを見つめる近藤さん。
ぱちぱちと瞬きをした後、土方さんの顔を見る。

「……空蒼くんの手拭いがいい」

そう言って、またぷいっとそっぽを向いて、今度は大声ではなくしくしくと静かに泣き出した。

「……。」

そう言われてしまった土方さんは身体が硬直していた。

「ぷっ…」

空蒼はその光景に思わず声が漏れる。