あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした




「…空蒼くん」
「…はい?」

土方さんと話し終わった直後、右側に座っている近藤さんに呼ばれた。

「っ……」

近藤さんの方を見た瞬間、ちょっと、いやかなり引いた。

「空蒼くんは私に幻滅したかい…」

体育座りになり、背中を丸めて、両手の人差し指と人差し指の先をつんつんしながら、その周りに今にも茸が生えそうな雰囲気を漂わせている近藤さんが空蒼の視界に入った。どことなく、じめじめとした雰囲気が伝わってきている気がする。

「……。」

バッと土方さんを見る。

「……知らねぇ」

そう言いながら、土方さんは他人事のように筆をくるくる回しながら我関せずと言った表情でふいっと視線を逸らした。

「……。」

(この裏切者め…)

ここには裏切者しかいないのか。
空蒼は土方さんを睨んだ後、近藤さんに向き直った。

「…私はただ、トシが話すと言っていたのにまだ話していなかったから…まだ空蒼くんが処遇とか言っているからトシに対して頭にきて…」

俯きながら、小さい声でそう話す近藤さん。
不謹慎にもこの姿が可愛いと思ってしまう。

それにしてもどうして近藤さんはこんなにいじけているのだろう。

「…こ、近藤さん、近藤さんが土方さんに対して俺のために怒ってくれた事は感謝しています…ただ、どうしてそんなに落ち込んでいるのか俺には見当が付きません」

恐る恐る近藤さんに問いかけた。
会話の中に近藤さんが落ち込む要素なんてなかったはず。
ではなぜ、こんなにも茸を生やす勢いで近藤さんは落ち込んでいるのだろう。

(なんかもう…茸が生えている気がする…)

「……そんな事よりって…」
「……え?」

茸の幻覚が見え始めていた時、近藤さんがぽつりと呟いた。

「私がトシに対して怒っている時…私の言葉を遮って”そんな事より”って言った…」

顔を上げてこちらを見つめながらそんな事を言ってきた。
しかも、うるうると瞳を潤ませながら今にも泣きだしそうな勢いで。

「……。」

それを見て空蒼は悟った。
新選組で一番厄介なのは近藤さんに違いないと。

「それで…私は空蒼くんに嫌われてしまったのかと…」

そう言うと、また人差し指と人差し指をつんつんしだした。

(……。)

これがあの、さっきまで土方さんに怒っていた近藤さんなのだろうか。
今の彼は、大好きなお菓子を取られていじけている、そんな子供にしか思えない。

「そっ…そんなわけないじゃないですか…嫌ってなんかいませんよ…」

これは面倒くさいと思い、とりあえず慰めるような言葉を口にする。

「ほ、本当か?」

すると瞳をうるうるさせながらそう確認してきた。

「はい、だって嫌う程そんなに好きじゃありませんから」
「……。」

そう言った瞬間、ついに目に溜まっていた涙がブォッという効果音でもするかのように流れ出した。

(あれ…言い方間違えた?)

近藤さんは、うぉぉぉおおと声を上げながら泣いている。
まるで漫画の世界にでも入ってしまったかのように、涙が勢い良く流れ、飛び散っている。
そして流れる涙を拭おうとしているのか、目を腕でゴシゴシしていた。

「…お前は馬鹿か?刺激してどうすんだよ」

それを見て呆気にとられていると、今まで傍観していた土方さんが後ろから鋭いことを言ってきた。