「聞こえてないのかトシ、俺はお前に話をしている」
近藤さんを見ると、あの優しい雰囲気はどこへやら。今は角ばった顔がとても恐ろしく見える。
「いや…聞こえている…」
いつもは逆だと思うのに、今は近藤さんが恐ろしいと思ってしまう。
だが、近藤さんにもこんな一面があったとは、不謹慎ながらそんな新たな発見に少し感動していた。
「俺はお前が話をすると言ったからお前に託したんだが、まだ言ってないのか?」
空蒼の後ろに居る土方さんにそう問いかける。
(えーと…あれ?もしかしてこれ、あたしのせい?)
空蒼は目をぱちぱちしながら青ざめている藤堂さんに視線を向ける。
「それは……」
後ろから土方さんの消え入りそうな声が聞こえる。
すると、空蒼の視線に気付いたのかバチッと目が合った。
藤堂さんは空蒼を見ながら首を横に振っている。
どうやら、空蒼のせいでは無いにしろ、この状況に戸惑っているのには違いないみたいだ。
(…ん?)
首を振ったと思ったら次は口をぱくぱくして、必死に何かを伝えてくる。
空蒼は藤堂さんの口元に注目した。
(えーとなになに?お、れ、は、た、い、さ、ん、す、る…え?俺は退散する?)
言っている事を理解した空蒼は、首をぶんぶん振る。
(いやいや冗談じゃない、こんな雰囲気の悪い所にあたしを置いて逃げるつもり?)
睨みを効かせて藤堂さんを見る。
すると、ぺこぺこっと頭を下げてきた上に、悪いと言うように両手を顔の前に合わせてきた。
「トシ、話す時は目を見て言えっていつも言ってるだろ」
声の低くなった近藤さんの声が隣から聞こえる。
(っ……!!)
すると我慢できなくなったのか、急に藤堂さんが勢い良く立ち上がった。
「ご、ごめんなさい近藤さん、俺用事を思い出したから抜けるわ!」
そう早口に一方的に告げると、開いている襖を横切って逃げるようにしていなくなった。
(……裏切者め)
今度会ったら爪の皮を剝いでやると心に決めて、二人の会話を聞くことにした。
