「あぁ…それは私が昨日の夜、空蒼くんに持ってきた夕餉だ…空蒼くん…結局食べなかったんだな…」
朔雷空蒼を見つめながらそう言う近藤さんの表情はとても暗い。
「あの後持って行ったのか?」
確かに持って行くとは言っていたが、まさか近藤さん自身が持って行くとは思ってなかった。
「あぁ…色々と話がしたかったからな」
そう答える近藤さんの後ろに居る総司は、ずっと俯いたまま何も言わない。
そんなすぐには気持ちの整理なんてつくわけがないか。
「そんな事よりトシ!早く空蒼くんを運ばないと」
「あぁ…」
近藤さんの言葉に頷くと、俺は小屋を後にした。
朔雷空蒼を抱えている為、縁側からではなくお勝手から中に入る。
「はぁはぁ…んぅ…はぁ…はぁ…」
苦しいのか熱いのか分からないが息が荒い。
それにしても男にしては軽すぎるし細い身体。
顔もなんだが女みたいな顔をしている。
人の事言えないがな。
「土方さん!準備出来てるぞ!」
廊下を歩いていると、俺らに気付いたのか部屋から顔を出しそう言ってきた。
「…左之助、声がでけぇ」
「おっとすまねぇ」
そう言うと、口を手で覆って静かにする。
やれやれと思いながら部屋の中に入る。
部屋の真ん中に敷かれている布団にゆっくりと下ろす。
その弾みで、頭に被っていたものが肩に落ちた。
「……。」
昨日俺はこいつに言った。
"どうしてそんなに目を嫌がる?"
そしたらこいつは俺を睨んできたんだ。
今は目を閉じているから、目の色を窺う事は出来ないが、あんな綺麗な目をどうして嫌がるのか疑問に思った。
疑問に思ったからそう聞いただけなのに、どうしてこいつは睨むほどそんなに嫌なんだ?
「うわぁ…男にしては整った綺麗な顔してるんだな」
そんな事を考えていたら、横からひょいっと左之助が顔を覗かせてきた。
「…そう思うか?」
「うん…まぁその長い前髪で顔が隠れているから残念だけど」
「……。」
確かに。
こいつをよく見ると、長い黒い髪を後ろに一つに結んでいて、目を隠すように前髪が長く伸びている。
この長い前髪さえなければ、結構モテそうなのに。
そう思いながら、綿の入った襟袖付きの夜着を朔雷空蒼にかける。
「…土方さん、こいつが昨日土方さんと総司が出会った少年か?」
寝ているこいつの顔を覗き込みながら聞いてくる。
「あぁ」
昨日、幹部にはこいつについて一通りの事は話している。なので気になったのかじっと見つめている。
「…気に入っても食うなよ」
「っ…食うわけねぇだろ!俺は衆道の趣味はねぇよ!」
「俺もねぇな」
顔を真っ赤にしながら否定する左之助が少し可愛く見えた。
