総司が奴に対して何か思っていることがあるんだろうとは思っていたが、まさかこんなに怒りを露わにするとは思わなかった。

総司にも思うところがあるんだろう。
今でこそ総司は新選組の一位二位を争うだけの実力はあるが、それは努力なしとはもちろん言えるはずはない。

総司も剣術を始めるようになった頃は、ただ振り回したり闇雲に打っているだけだったが、いつの間に剣術の才能に目覚めたのか、天然理心流の免許皆伝を得るまでになった。
もしかしたら俺や近藤さんが本気で立ち会ったら、確実にやられるだろう。

そんな総司から見たら、あいつの言動や行動が気に触ったのかもしれない。何の努力もせずに結構な腕前ならそりゃ総司の嫉妬心を煽ることになる。
散々、近藤さんから天才天才と言われてきた総司なら尚更だ。

近藤さんを守るために努力をしてきた総司が、もしかしたら近藤さんを取られるのではないかとでも思ったのかもしれない。

「……そして、こんな風に思っている自分に対しても腹立たしいです」

総司にとっては初めての感情なのかもしれない。だから、その気持ちにどう向き合っていけばいいのか分からない。
総司らしいと言えば総司らしい。

「総司……お前は…」
「…土方さん!!」
「…あ?」

総司に話しかけようとした時、外から自分を呼ぶ声が聞こえてきた。

俺と総司はその声に襖に目を向ける。

――スパァァァァァンンンンン

その瞬間、部屋の襖が勢い良く開かれた。

「居た、土方さん!」

そこには見慣れた人物が息を荒らして立っていた。

「おい左之助…おまえ部屋の入り方も知らないのか?」

目の前に立つ人物原田左之助は、この時代では珍しい黒髪の短髪で、目鼻立ちのキリッとした顔をしている。
そんな彼が寝癖のついた髪をゆらゆら揺らしながら、息を荒げていた。

「土方さん大変!小屋の中で誰かが倒れてる!」

俺の言葉を無視してそう言い放つ左之助は、呼吸を整えながらそう言った。

「…何?」

左之助のその言葉に眉間に皺を寄せる。

「身体をさすっても起きないし、身体もなんか熱かったし、病気か何かか!?」

あたふたしながらそう言う左之助は、とても慌てているのか声が大きい。
それにしてもあの小屋には一人しかいないはず。

「小屋に誰かが倒れてるって左之助…俺はお前にあいつを……っ…」

そこまで考えて眉毛がピクリと動いた。
俺はその場に立ち上がり、左之助に言い放った。

「左之助、今すぐ俺と一緒にそこに行くぞ」
「うん!」

俺の言葉に頷いた左之助は一足先に歩き出す。
それを見てから俺は、こっちを見て黙っている総司に一言言った。

「お前はここに居てもいいが、その代わりその気持ちとしっかり向き合え」
「……え?」

その言葉にきょとんとする総司。
何を言っているのか分からないという顔だ。

「お前は何も考えずただひたすらに竹刀を振り回してりゃいい。お前に考え事なんて似合わねぇよ」
「……っ」

何を言いたいのか分かったのか総司は目を見開いた。

「…土方さん早く!」
「あぁ…」

左之助にそう急かされ、総司を置いてその場を後にした。