あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした





「…新選組になるまでに、色々な事があったなぁ…」

壬生浪士組時代を思い出しているのか、懐かしそうにそう呟いた。

(…色々な事)

近藤さんの言う、その色々な事には一体どんな思いが込められているのだろう。
ここまで来るのに決していい事ばかりではなかったはずだ。裏切られることも仲間を失うことも沢山あっただろうし、自分の判断が新選組に影響を及ぼすこともそれなりに分かってきたはず。それなのに、そんな事を思わせないその言葉に、空蒼は一つの疑問が浮かんだ。

空蒼の目の前に置いてある行灯の中には、蝋燭が入れてあり火が灯っている。
そんな行灯を見つめながら、空蒼はその疑問を聞いてみる事にした。

「…一つ、聞いてもいいですか?」

静寂の中、空蒼の声だけが響き渡る。

「何だい?」

優しい返答に、空蒼は躊躇うことなく口を開いた。

「京に来た事に…後悔はしてないのですか?」

新選組の原型は壬生浪士組、壬生浪士組の前は農民に過ぎなかった。
もし、近藤さん達が京に行くこと無く、そのまま農民として暮らしていたら、近藤さん達はあんな若くしてこの世を去らなかったんじゃないのか。新選組の事を思う度、そんな事を思っていた。

「うーんそうだなぁ……私は、今はまだ後悔するほど立派に生きられていないからなぁ…」
「……?」

(どういう事?後悔するほど立派に生きられてないって…どういう意味?)

空蒼は咄嗟に近藤さんの方を向いた。
それに気付いた近藤さんも、空蒼の方を向く。

「ん?どうかしたのかい?」

首を傾げながら、柔らかい笑顔を向けてきた。

「……後悔するほど立派に生きられていないって…どういう意味ですか?」

空蒼は近藤さんの目を見つめながらそう聞いた。
フードを被っているせいで少し見にくいけど、こちらを見ているのが窺える。

「後悔にもそれぞれ色々な意味があるが、俺の中での後悔は、一つのことを一生懸命頑張って頑張って頑張った上での後悔の事だと思うんだ。俺はそんな後悔はあってもいいと思う」

揺るぎないその瞳に力強さが見えた。

(……一つの事を頑張った上での後悔…その後悔は無駄じゃないの?)

近藤さんはそこで言葉を止めた後、空蒼から視線を逸らし、前を見つめる。

「俺はそんな後悔を沢山したとしても、無駄だなんて思ったりはしない」

空蒼の心を読んだかのような言葉を返してきた。
その横顔を空蒼は無言で見つめる。

「…だから……先程の質問には答えられないが、もしこの先その後悔をする事になったとしても…俺はそれを誇りに思うよ」
「っ……」

その言葉に目を見開いた。
後悔をするのに、それを誇りに思う?