あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした





思いのほか音が大きく、少しビクつきながら数歩後ろに下がる。

「…空蒼くん?」

小屋の中が暗い為、あたしの姿を認識出来ないみたい。
でも実際は扉が開けられた事により、さっきよりは明るくななっている。

「…はい」

きょろきょろ見渡している彼に空蒼は返事をした。

「…お?おぉ、そんなところにいたんだね」

空蒼の姿を捉えたのかそう言って、小屋の中に入ってきた。
火の灯っている行灯を片手に持っているのか、その周りが少し明るくなっている。
空蒼の目の前まで来たその人は目の前で足を止めた。

「…遅くなって済まなかったね…少ないけど食べてくれ」

そう言ってもう片方の手に持っている物を、目の前に差し出してきた。乾燥させた笹の葉に包まれたそれは、見る限りずっしりとしている。

その食べ物から目線を逸らし顔を上げると、柔らかい笑顔をした近藤さんがこちらを見ていた。
行灯の灯りのお陰で、近藤さんの表情くらいは窺うことが出来る。

「…ありがとう、ございます」

いつまでも差し出されているのが申し訳ないので、仕方なくそれを受け取る。
案の定、ずっしりとしていた。

「塩むすびと沢庵だよ、あとこの竹筒の中には水が入っているから、喉が渇いたらのんでおくれ」
「はい…」

ニカッと微笑む近藤さんから目を逸らし、先程まで座っていた板の上にそれらを置く。

(…気が向いたら食べよう)

そんな事を思いながら、近藤さんがいる後ろを振り返る。

「…わざわざ持ってきて頂きありがとうございました…」

そう言いながら頭を軽く下げる。

「いやいや、頭をあげてくれ。お礼を言われる様な事は何もしていないよ…元々トシに言われていたんだろう?先程は約束を破るような事を言ってすまなかったね…」

申し訳ないと付け加えて近藤さんが謝ってきた。
眉毛が下がり、とても悲しそうな顔をしている。

(どうして近藤さんが謝るの?そう言ってきたのは土方さんなのに…)

近藤さんは悪くない、悪いのは…いや、誰も悪くない。
土方さんが怪しい人にそう言うのは当然なのだから。

「…いえ、貴方は悪くありません……もう大丈夫なのでお帰り下さい」

近藤さんに謝ってほしかったわけじゃない。
そんな表情しないでほしい。

「……少し、話をしないか?」
「…え?」

今、お帰り下さいと言ったばかりなのに、聞こえなかったのだろうか。それとも天然、空気を読めないば…ではないが、お人好しなのに変わりはない。