あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした





そんな事を考えながら、近藤さんに話しかける。

「…他の奴らには言うなよ」

近藤さんの事だから、そうやすやすと言わないとは思うが一応釘をさしておく。

「……山南先生にもかい?」
「あぁ…」

複雑な表情の近藤さんには申し訳ないが、近藤さんがそれを承知してりゃそれで十分だ。
それに山南さんは優しすぎるから余計に言えない。
そう思いながら、畳に手をついてその場に立ち上がる。

「トシ!あの子はいつになったら出してあげるんだ?」

立ち上がったまま俺は近藤さんに視線を移す。

「……明日には出すつもりだ。その前に幹部で話し合わなきゃならねぇ」
「隊士にするのは決定事項なのにか?」
「…俺らだけでは決められねぇからな。話し合うという建前も必要だろ」

そう伝えると、前を向き直り襖に手をかけた。

「…あの子に夕餉は持っていくからな」
「好きにしろ…」

前を見つめながらそう言うと、襖を開けて今度こそ部屋を後にした。




――ギシッギシッギシッ

廊下を歩く度、そんな音が聞こえる。
爽やかな風が自分の身体を通り抜ける感覚がする。

季節はもう秋だ。
つい先日まで暑かったのが嘘のようで、朝晩は流石に冷える。

どうしてあんなに近藤さんがガキを気にしているのか知らねぇが、俺は俺のやる事をやるだけだ。
俺は、近藤さんと一緒に誠の武士になる為なら、どんなに残酷だろうと、鬼と呼ばれようと、俺の覚悟は変わらない。

そんな土方さんの目には、覚悟と信念が満ち溢れていた。


すると、目の前から一つの人影が歩いて来るのが分かった。

――ギシッギシッ

近付くにつれ、その人の姿が顕になる。
少しくせっ毛のある茶色に近い短い髪に、西端な顔立ちをしている男、山南敬助。
あちらも俺の存在に気付いているのか、自然と俺の歩く側が開けられるのが見て取れる。

「……。」
「……。」

お互い目も合わせず、会話もなく、その存在を無視するかのようにすれ違う。

いつからこんな関係になったんだろう。
ふと、そんな事が頭をよぎった。

「……"あの頃"が懐かしいです」
「………。」

すれ違う寸前、山南さんにそんな事を言われた。

「……。」

特に答える事もなく、通り過ぎる。
あの頃…。

少し歩いた所で足を止めた。

「………。」

いつからだったか。
意見の食い違いが何回かあって、会話が無くなっていったのは。

いつからだろうか。
こんな関係になったのは。

いつの間にかこんな関係になっていた。気付いたら、山南さんに対して思ってもない事を口にしていた。
何が気に食わないのだろうと考えた事はある。
どうして山南さんの前では素直になれないのだろう。
喧嘩したいわけでも、こんな関係になりたかった訳でもない。

もう、あの頃には戻れないのだろうか。

「………総司の所に行かねぇと」

考えを吹っ切るように、止まっていた足を再び動かした。