「…帰りましょうか」
「…え?」
「新選組屯所に…三人で」
「……っ!!」
そう言ってくる総司の顔は穏やかな表情をしていた。
あの時の様な冷たい目つきではなく、低くて凍り付くような声じゃなく、初日に会った時の様な優しい総司がそこにいた。
空蒼はびっくりして目を見開く事しか出来ない。あれから一転総司に何があったというのだろうか。
そんなびっくりして何も言えない空蒼に総司が慌てて口を開く。
「あっ…えっと…その、あんなひどい事言っておいて今更何だと思うかもしれませんが…全部ひっくるめてとても反省しています…その、すみませんでした!」
「……。」
弱々しく言葉を言い放った後、バッと頭を下げてきた。
九十度は確実に曲がっているだろうか、見事な曲がり方である。
「………えっと…あの…おき………っ!危ない!!」
「え…?」
「総司避けろ!!」
空蒼と土方さんの声が総司に危険を知らせた。
頭を下げている総司の後ろから急に刀が振り下ろされてきたからだ。
でもこのままだと間に合わない、確実に総司に刃が当たってしまう。直感的にそう思った。
――ドンッ!!
「うわっ!!」
総司が空蒼に突き飛ばされて地面に叩き付けられた。
それとほぼ同時に空蒼の肩に痛みが走る。今までで感じたことのない痛みが空蒼を襲った。
「痛っ……っ」
痛みのあまり膝から地面に崩れ落ちた。地面が砂利だろうと今は気にしていられない。
左肩を見ると、紺色の羽織が血で染まっていた。
(え…何…斬られるのってこんなに痛いの?)
転んで膝小僧が擦り切れるとか、弁慶の泣き所を打つとか、突き指するとかそんなレベルの痛さじゃない。これはもはや言葉に出来ないくらいの痛さだ。
――カキンッカキンッザシュッ!!
「ぐわぁぁぁあああ!!」
――カキンッザシュッ!!
「ぐっ……」
左腕をおさえていると、すぐ近くで人が斬られる音と叫ぶ声、そして倒れる音が聞こえてきた。
見上げると、土方さんが息を荒げており、刀には血がべっとりと付いていた。
「っ…うぷっ…」
すると急に喉から何かが出そうになり、必死で口元を手で押さえる。
これはあれだ、ここまで濃い血の匂いを嗅いだことなどない為、身体が悲鳴を上げている。この状態じゃいつ吐いてしまってもおかしくはない。
「おい朔雷!!大丈夫か!?」
「朔雷さん!!ど…どうして俺なんかの為に…」
血の匂いに悪戦苦闘していると、土方さんと総司が空蒼の元に駆け寄ってきた。
空蒼と同じ目線になるようにしゃがんでくれた二人を見上げると、今にも泣き出してしまいそうな総司と、眉間に皺が寄りいつにも増してイラついている土方さんがいた。
いや、何でそんな表情をしているのか空蒼には分からない、特に土方さんは何故イラついているんだろうか。
「はぁはぁ…と、とりあえず…その刀を……っ!!ゲボッオロオロオロオロッ!!」
ついに我慢の限界を迎えたみたいだ。
二人にかからないように、咄嗟に身体をねじらせて後ろに思いっきり吐き出した。
これはもう見事なくらいにすっきりと。先ほど食べたみたらし団子もきっと出てしまったと思う。
「だっ大丈夫ですか!?えっとえっと何をどうすれば!?」
「総司…お前少しは落ち着け」
「ゲホッゲホッ…」
その会話で空蒼の後ろであたふたしているであろう総司と、それを落ち着かせている土方さんの姿が容易に想像ができる。
