怪我したら大変とかそんな事言っていられる次元じゃない。
怪我どころか、もしかしたら命さえいつ無くなってもおかしくない立場にいる人なのだと、改めて嫌なほど痛感した。
土方歳三は、新選組はそんな立場にいる組織だ、幕府の為に命を賭すことくらい当たり前なのだ。
(でも…それでも…)
「…死なないで……」
「っ……」
心の中で言ったつもりが無意識に言葉に出ていたのか、それを聞いた土方さんの肩がピクッと反応した。
そしてゆっくりと土方さんはチラッと空蒼を見てくる。
”死なないで”
それは空蒼の願望であり、わがままだ。
命のやり取りをしている以上、彼らにそんな事を言ってはいけない。
それでもそう思ってしまうのは、空蒼の心が弱いのか、覚悟が足りないのかそれとも…。
「あん?…何言ってやがんだてめぇは。俺がこんなところでくたばるわけがねぇだろ」
「っ……」
そう言った土方さんは何故か楽しそうにしていた。
死ぬかもしれない恐怖を感じているのではなく、この状況を楽しんでいるその姿には尊敬に値するレベル。
どれだけの覚悟を彼らはしているのだろうか。空蒼にはそれを感じる事すらできない事がとても悔しかった。
「……いつまでも仲良く話しているのなら、俺が手柄を取ってしまいますよ」
すると、急にどこからか聞きなれた声が聞こえてきた。
久しぶりに聞くその声に一瞬耳がおかしくなったのかと錯覚する。
と、その瞬間。
――ガキンッ!!
――ザシュッ!!
「うわぁぁぁあああ!!!!!」
刀の刃と刃がぶつかり合う男と鈍い音、そして男の叫び声が聞こえてきた。
それもそのはず、軽やかな動きでリーダー格の男の腕を斬ったその人物。
空蒼の目にここにいるはずのない人物が映っていた。
「総司…お前、もういいのか」
「えぇ…吹っ切れました……それに勘違いだと分かりましたから」
土方さんは何かを知っているのか総司がここにいることに驚いていない様子。
空蒼は血の匂いが漂ってきて、とてもじゃないが耐えられず表情が歪む。
こんな生々しい血の匂いは空蒼にとって初めての事。とりあえず鼻をおさえる。
すると総司は空蒼の所までゆっくりと歩いてきた。
同じくらいの背の高さだろうか、こうして見ると高校生にしか見えない。
(……どうしてここにいるの?次会ったら斬るって…あ、もしかして我慢できなくなって斬りに来たとか…?)
総司は血の付いた刀を片手に持ちながら、戸惑った表情を浮かべている。
何か言いたそうにしているのだが、一向にして何も喋らない。
空蒼はふと総司の後ろで悶えているリーダー格の男に視線がいった。
斬られた手首からは血が沢山流れており、切り落とされた手首が砂利の上に転がっている。見ているこっちまで痛くなってきそうだ。そして、仲間の二人は男の横で心配そうにオロオロしていた。
(これが…幕末…)
空蒼の想像する何倍、いや何百倍も恐ろしい所だ。
人の命が一瞬にして無くなる時代、それが幕末なのだ。
「…朔雷さん」
「っ……!」
その言葉に視線を総司に移す。
初日ぶりだろうか、名前を呼ばれたのは。
あの暗がり以来だ、総司の顔をこうやって見たのは。
空蒼は鼻から手を放し、総司の言葉を待つ。
土方さんは隣でその様子を見守っていてくれている。
何も言ってこないところを見ると、どうやら何もかもお見通しのようだ。
