あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした




「…押し倒されてた奴が言うじゃねぇか」
「……。」

ド正論なので何も言えない。
いやしかし、それとこれとはまた別だきっと。

「おいおい、俺らとの闘いが無駄だと?」

聞こえないように小さい声で話していたつもりが聞こえていたらしい。
リーダー格の男がイラついている、どうやら地獄耳のようだ。
が、それを無視して話を続ける空蒼。

「いいですか土方さん、長州の奴らとはいえまだ何もしていません。こちらから斬りこめばこちらが悪いんですよ。頭を使って下さい頭を」
「…言うようになったなお前」
「それほどでも。とにかくそれを早く収めて下さい…騒ぎを起こしたいんですか」
「…お前が襲われそうになっていたのは騒ぎとは言わねぇのかよ」
「何の事ですか。忘れましたよそんな事」

肝は冷えたが結局何もなかったのだ、くよくよ何てしていられない。
とりあえず今は事を鎮めるのが先決だ。

「おい…何俺らを無視して話してんだよ!!」
「っ……」

無視していたので勿論怒鳴られる。
すると、リーダー格の男が痺れを切らしたのか、刀を振り上げてきた。

「ちっ…」
「うぉ…!?」

ガキンッ!!!

刀と刀の激しい金属音が辺りを包み込む。
何とか土方さんが刀を受け止めてくれたらしい。

(えっと…何も見えない)

と言うのも空蒼からはその光景が見えないでいた。
土方さんに腕を引かれて、気が付いたら懐に頭が埋もれていたのだ。土方さんの心臓の音が至近距離で空蒼に伝わってくる。
土方さんは左手で空蒼を引き寄せて、右手だけで相手の刀を受け止めたらしい。
何とも恐ろしいというかなんと言うか、鬼副長と言うか、とても強いのが嫌でも分かった。

(土方さんに腕を引っ張られた時、間抜けな声が出たのは恥ずかしいけど…)

「お前俺の後ろにいろ」
「…はぁ?……何で俺が土方さんに助けられなきゃならないのですか」

一瞬素が出てしまいそうになったのを何とか堪えて言葉を正す。
勢いに任せたらいつ素がでてしまうか分かったもんじゃない、気を付けなければ。

「お前なぁ…もう既に一度は助けられてるんだよ」
「不可抗力です」
「お前……」
「……。」

これ以上は危ないので黙ることにした。
土方さんとリーダー格の男は刀を構えなおして、お互い間合いを取る。

(いやいやいや…ちょっと待って、どうして闘う感じになっちゃってるの?)

「ちょ…土方さん刀を…」
「これが俺のやるべきことだ」
「え…」

空蒼より数歩前に出た土方さんに言葉を遮られた。
前を向いたまま言葉を続ける土方さん。

「俺は新選組副長土方歳三だ。こうして相手が刀を振るってきた時点で選択肢なんてねぇんだよ…俺はただ俺のやるべきことをするだけだ」
「……。」

そう言う土方さんの後ろ姿に迷いなんて微塵も感じられなかった。
そうだ、土方さんは新選組副長なのだ、覚悟くらいとっくの昔にできていて当たり前。
いつかこうなる覚悟が持てていなかったのは空蒼の方だ。