あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした




こめかみがピクピクとピクつくのが分かる。
それくらい空蒼はイラっとしている。

(男だと思って…あたしは女じゃ馬鹿垂れ!)

と声に出すことはできない。
これはもう女だろうが男だろうが関係ないんだろう。奴の気が収まらない限りこれはきっと続く。
空蒼は掴まれている両腕を何とか振りほどこうと、これでもかと言うくらいに力を入れる。

「おいおい、そんな弱い力じゃ俺を振りほどこうなんて無理だぜ」
「くっ……」

いちいち癪に障る事を言ってくれる。
精一杯の力を入れていると言うのに、ここまで女と男に力の差があるとは何だかとても悲しい。
女に生まれたと言うだけで、一人では何も出来ないのがこんなに悔しいなんて思いもしなかった。

グラッ

「っ……!!」

ドスンッ

(……。)

何が起こったんだろう。
身体が傾いたと思って気が付いたらいつの間にか背中に固いものが当たっていた。

「残念だったな、お前の力じゃ俺の腕は振りほどけない」
「……。」

仰向けになっている空蒼の両手を頭上に持ってきて拘束しながら、目の前にリーダー格の男が迫ってくる。
目を瞑らない限り、嫌でも視界に入ってくるこの男は本気で空蒼を抱くつもりらしい。目がそう言っていた。

(いやマジで嫌だから!!こんなところで襲われてたまるか!)

空蒼は両足をジタバタと乱暴に動かす。
ただでさえ、押し倒されているこの状況にイラついているのに、何もしないなんて女が廃る。

「おい暴れるな…近くで見るとより整った顔が際立つな」
「ちょっ…触んな!!」

そう言ったかと思ったら、空蒼の顎を少し上にクイッと持ち上げてきた。
変な冷や汗が額を伝う。
頭上で掴まれている両手に力を入れ解こうとするがやはりビクともしない。

「おーい、程々にしろよー」
「分かってるって」

青年の声だろうか。この状況を見てよくそんな呑気が言葉を言えるものだ。
頭がイカれているに違いない。
新選組と全然違う、彼らはこんな事しない。こんな酷い事、土方さんだってしない。

(あぁ…どうしてこんな時にまで新選組の事を思い出すんだろ…それだけ好きってことなのかな…)

「それじゃ…ゆっくり味わうか」
「……。」

男の顔が空蒼に近付いてきた。
勝ち誇ったリーダー格の男に、素知らぬ顔でこの状況を楽しんでいる残りの二人。橋の上からも何人か見ているが助けてくれない人達。
改めて、この時代に味方は誰一人いないのだと実感した。

それを見てたらなんか馬鹿馬鹿しくなってきた。
どう足掻いたって誰も助けてくれないのなら抵抗する意味もない。

(もう……どうでもいいや)

力を入れていた両手、ジタバタしていた両足の動きを止める。
力を無くしたそれらは無残にも弱々しく見えた。

「……なにっ…やってんだよてめえは!!」
「っ…!?」

ドスンという大きな音が聞こえたと思ったら、上に覆いかぶさっていた男が空蒼の視界から消えた。
それと何やら安心する声も聞こえてきた。
身体を起こし、唖然とその声の主の後ろ姿を確認する。

(……え)

「痛てぇ……っ……お前はもしかして!」
「よぉ長州さんよ、お前ら衆道の趣味でもあんのか?」
「おっお前には関係ないだろ!新選組副長土方歳三!」
「…な、んで……」

リーダー格の男が土方さんに対して声を荒げる。
その後ろにいる二人は今にも腰にある刀を抜いてしまう勢いだ。
そしてその光景を唖然と見ることしかできない空蒼。
どうやら土方さんはリーダー格の男を体当たりで吹っ飛ばしたらしい。その男はぶつかったお尻を痛そうに擦っていた。