あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした



「……。」

この目を見ても、気持ち悪いとか言わないだけ有難いが、その目つきなんか嫌だ。

さっきとは打って変わって、にやにやと気持ち悪い笑みを浮かべている。
それを見て空蒼は悟った。
ここに居てはいけないと。今すぐ逃げないと取り返しのつかない事になると。空蒼の直感がそう警鐘を鳴らしていた。

「…な、何を訳の分からんことを…俺はもう行く」

奴らに構うことなく、踵を返して歩き出す。
ここは幕末だ、現世では当たり前にあった出来事はこちらでも一つや二つあるはずだ。

「おい待ちやがれ」

――ガシッ

「……離せ」

リーダー格の男に腕を掴まれてしまった。
男の格好をしている事に後悔する日が来るとは思いもしなかった。

「お前、そんな綺麗な顔をしているんだから、一人や二人くらいは相手してんだろ?」
「……。」

何を言うんだこいつは。
綺麗な顔をしているからって誰彼構わずついて行く奴がいるのだろうか。

(てか、そもそも綺麗な顔って何なんだよ?誰の事を言ってるんだよ全く…)

頭がおかしくなりそうだと頭を抱えたくなる空蒼。
空蒼も空蒼とて自分がどれだけ整った顔をしているのか、守ってあげたくなる雰囲気が出ている事を彼女はまだ知らない。

「俺と一発どうだ?優しくしてやる」

ゾゾゾッと背筋に虫唾が走るのが分かった。
毛虫を見るような目でリーダー格の男を見る。

(……本当にまずいかも…)

人々が行き交う橋の下付近とは言え、わざわざここに助けに来てくれる人はきっと居ない。
他の二人に助けを求めてもいいが、どうやらその気は無さそうだ。次は俺とか言っている時点でカスも同然だった。

「……離せと言うのが聞こえないのか?」

そう男らしい言葉を言う空蒼だが、素が戻っている。新選組の人達の前では優等生を演じていたというのに、こんなところを見られでもしたらと思うととても恐ろしい。
空蒼にとって大好きな人たちには丁寧に接したいという気持ちがあった。蔑まれてきた時と同じような姿を見せる訳にはいかない、そんな事をしたら今度こそ彼らに嫌われてしまうから。そう思ってならなかった。
だが今はどうだろうか、この目を綺麗だと言ってくれた彼らが、空蒼の素を見たら態度を変えるというのだろうか。少ししか関わってないがそんな事は絶対にないと言える。
でももしかしたらと言う気持ちが拭えないのは確かである。

「そんな綺麗な顔で言われても怒る気にもなれない…さぁ観念して大人しく俺に抱かれるんだな」
「っ…ちょっ!?」

そう言ってきたリーダー格の男は、空蒼の両腕を掴んで後ろに押し倒そうとしてきた。
空蒼に体重を乗せて押し倒す気満々だ。

(なっ!?ありえない!!こんなっ…こんなビクともしないの!?)

何としてでも阻止するべく、奴の身体を押し返そうとしているのだが、全然動かずビクともしない。
それと同時に突き付けられた、女と男の差を。

「どうした?男のくせにその程度の力なのか?嫌なら押し返してみろよ」
「……。」

楽しんでいるのかそう喧嘩を吹っかけてきながらもにやにやしている。
その顔が気持ち悪いったらありゃしない。