あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした




「私の事も楓と呼んでね!」
「…はい」

笑顔が眩しすぎる。
如月さん…楓は人見知りしないタイプらしい。こんなガンガンくる人と初めて話したかもしれない。

「…ってごめん!私同い年と分かった途端、馴れ馴れしくしちゃったよね…本当に嬉しくて…」
「……。」

空蒼の先ほどから変わらない態度に焦ったのかしゅんとなる楓。
縮こまっているその姿がなんだか可愛く思えてきた空蒼。その姿にクスッと笑みがこぼれる。

「…如月さん…いや、楓って可愛いね」
「っ……!!」

彼女の前では初めて笑った空蒼。それなのに笑った本人はそれに気付いていない。
そんな空蒼に楓は目を見開いた後、口元を緩ませて口を開いた。

「もう一つだけ馴れ馴れしい事言ってもいい?」
「え…?」










「出来たー!!」
「……?」

そう言う楓の手には、ハサミと櫛が握られていた。
お座敷に腰を下ろしている空蒼の前の通路に楓が立っており、お互いが向かい合わせになっている。空蒼の左横には空になったお皿と湯呑みがテーブルの上に置かれている。
楓を見上げる形でお座敷に腰を下ろしている空蒼は、鏡を見るのが何故だか怖いのか心臓がドキドキ鳴っている。

「やっぱり…前髪を切った方が表情がよく分かるから切って正解!それにしても…」
「……えと…」

十分前、楓に言われた。
「その前髪切らせてくれない?」と。
つい先日までは考えもしなかったのだが、土方さんに言われたあの日以来、空蒼の中では気持ちよく吹っ切れた。この目を綺麗と言ってくれる人がいるのならそれだけで空蒼は自信が持てるようになった。

だからフードを被るのをやめたし、目を隠していた前髪もどうにかしたいとは思ってはいたが、なかなか決断ができなかった。そんな時に楓に前髪切らせてくれと言われたら断るわけがない。むしろチャンスだと思った、これを逃せばこの先自分から切ることはできなかったと思うから楓のその言葉がとても有難かった。

「前髪で顔が良く見えなかった時も顔が整っているなとは思ってたけど……まさかこれほどとはね」
「……?」

空蒼の顔をまじまじと見つめながら、うんうんと頷いている楓。
それに対し空蒼は何を言っているのか全然分からない様子。

ハサミと櫛を棚にしまい、床に落ちた空蒼の髪をテキパキと片付ける楓を見て、何回も言うが楓は良いお嫁さんになるなと心の中で感心する。
短くなった自分の前髪を軽く触る。眉毛くらいの長さだろうか、今までとは見え方が全然違った。狭かった視界が広くなったおかげで初めて自分がここにちゃんと存在しているのだと感じることができた。

「はい」
「え?」

前髪を触っていると、掃除をし終えた楓が柄鏡を差し出してきた。
立派な銀色の柄鏡をしたそれは金属製の為、定期的に磨かないとすぐに鏡面が曇ってしまう。曇り一つない所を見るととても大切に使われている証拠だ。

「えと…」

こんな大事にしている柄鏡を使ってもいいのだろうか。
目線で訴えかける空蒼。

「早く見てみて」
「…ありがとう」

恐る恐る柄鏡を自分の顔が見える高さに持ち上げる。