次からつぎへとやることが出てくる。それだけ喜んでくれているんだなぁと思えた。
一生懸命考えてくれる怜士さんが可愛く見える。

「せめて性別がわかってからでいいんじゃないですかね?」

「そうか……それもそうかもな。女の子なら、部屋の壁紙とかも可愛くしてやりたいしな」

「えっ壁紙……?」

子ども部屋は、随分と大掛かりな工事になりそうだ。
荷物をもった怜士さんが先に歩き出すと、後ろから微かに声が聞こえた。

「ふ、ふふ……」

運転手が笑いを堪えている。
しかし、馬鹿にしたような感じはしない。

「ええと、張り切っている怜士さんって珍しいですよね……」

そういえばこの運転手さんには、いままでもずっといちゃいちゃを見られていたんだ。
プロなので態度に出すことはしなかったが、きっといい年をしてこんなところで……と呆れていたに違いない。

顔を赤くすると、運転手さんはすみませんと謝った。

「怜士さんが、幸せそうでなによりだなと思いまして」

「はい……」

「実は、凛さんに会えなくなった時期に、車の中で、諦めるものかと叫んでいたことがあったものですから」

「はい?」

聞こえたことが信じられなくて思わず声を大きくすると、「しー」と運転手は慌てた。

「話したことが怜士さんに知られたら大変ですので」

「す、すみません……」

「あの時の荒ぶり様は、なかなか見応えがありました。
怜士さんは、基本、冷静沈着ですからね。

ここ三年、仕事一筋で気も張りつめておられましたから。
凛さんが入らしてからはそれはもう楽しそうで……
そんなわけで、わたしも秘かにおふたりを応援しておりましたので、よかったなぁとしみじみ思った次第です」

運転手さんは怜士さんの背中を見て微笑んだ。

「凛~、何してるの?」

怜士さんが玄関から呼んでいる。
わたしは運転手さんにお礼をいうと、駆け足で追いついた。

「走っちゃ駄目だろ。また倒れたらどうするんだ」

「そうでした。ごめんなさい」

今日はとても気分がよいのでつい。
いろんな事が解決したし、点滴をしてもらって一晩ぐっすり眠れたおかげか、体が軽く感じる。

これから、さらにつわりも酷くなるかもしれない。
なるべく栄養のあるものを食べて、無理をしないようにしよう。

そっとお腹に手を当てて撫でた。

「運転手と何を話していたの?」

「いつもありがとうございますって言っただけですよ。あと、これからお世話になることも増えますし、改めてご挨拶してました」

運転手さんから聞いたことは内緒だ。
このリークは、わたしの思い出としてとっておこう。
怜士さんがおじいちゃんになった時に、暴露してやろうかな。

そんな未来を想像して、含み笑いをする。

辛かった時、必死になっていてくれたことを知れて、また幸せな気持ちになった。