ASHIMORIが発明した技術は盗まれており、なぜかその技術はライバル会社のものになっていた。

そのライバル会社はその後、ウィステリアマリンの傘下に入っている。
お父さんは、騙されたのだと言っていた。
大手会社からの足切りは他の仕事にも影響し、契約はあっという間になくなり、銀行の融資もなくなった。

お父さんと中森さんは莫大な借金を抱えることになり、それぞれの家庭は大変な目にあった。

お父さんは暫くは、またやり直すのだと気丈にふるまっていたが、すぐに鬱になってまともに働けなくなった。

当時高校三年だったわたしは進学を諦め、当時、十六歳の長男、健(けん)と十四歳の次男、勇(ゆう)がせめて高校を卒業できるようにと働くことにした。

カズ君のお父さん、中森のおじさんは悔しい思いを消化できず、周囲を恨みアルコールに逃げるようになった。

二つ年上だったカズ君は当時大学を中退し、アプリ開発の会社に入った。昨年そこから独立してIT系の会社を立ち上げ、少しずつ成功してきているらしい。

カズ君とわたしは、同じ思いを共有する仲間のようなものだと思っている。

その頃からのウィステリアマリングループは、どんどん大きな会社になっていった。

テレビをつけると当初ASHIMORIもかかわっていた、世界一の大きさの豪華客船、その造船事業の宣伝が頻繁に目に入り、いつまでたってもその呪縛から逃れられないでいる。

迂闊にテレビもつけられやしない。
あんなに船が好きだったお父さんは、一切、海の話をしなくなった。

「最近、住み込みの家政婦さんしてるんだって?」

カズ君が聞く。

「そうなの。わたしやっぱり家の仕事とか子供の世話が好きみたい。すごく楽しいよ」

「よかったな。進学諦めるとき、一緒に泣いたもんな」

カズ君は、健に聞こえないように耳打ちする。

「もう……恥ずかしいからその話やめてよ」

いい思い出ではない。