「普通、思い出すだけでも嫌なことをしてきた人に、申し訳ないって思うことないんだよ。お人好しなんだね、誰よりも」

「それ、褒めてるの?それとも…」

「褒めてるよ。でも、そのお人好しは誰に対してもするわけじゃないことも分かってる」



真緒ちゃんは全部分かっているようだった。

私の気持ちも、私がどうしたいか、そんなことも。



「好きなんでしょ?でも、その気持ちに気づいた時に過去の話をされたから、困惑して勢いに任せて酷いことを言っちゃった。そうでしょう?」

「…もう、今からじゃ遅いよ。気づいたって、もう手遅れだ…」



さっき引っ込めたはずの涙が、また尽きることを知らずにどんどん溢れてきた。

大っ嫌い、なんて言ってしまったんだ。
先輩だって絶対に傷ついた。

もう、叶うことなんか───



「遅いことなんてない。今からでも間に合う。ちゃんと話し合っておいで。本当に何も出来ないまま後悔するより、行動してから後悔した方がいいでしょ?」

「…まだ、間に合う…?」

「大丈夫。優しい莉那なら、きっと大丈夫だから。もし傷つけられたら教えて?その時は私がお説教するんだから」



「早くしないと5時間目が始まっちゃうよ!早いうちに行っておいで!」



真緒ちゃんにぐっと背中を押してもらって、廊下を全力で走った。