ピクニックらしきものは、単純に楽しかった。
デートというと、正直どうしても困惑してしまうけど。
それは永遠くんのせいなんかじゃなくて、寧ろ私の方が申し訳ない気分になるからだと分かっていた。


「よく日向ぼっこしに来るの? 」

『たまに。だけど、本当に小動物扱いだ。自分のがちっちゃいのに』


そっちこそ、自分で日向ぼっこと表現したくせに、どうして拗ねるんだろ。


「そんなんじゃないけど……私は、久しぶりに外でのんびりしたかな」


少し嘘を吐きながら、こんなところにこんなに深緑があったのかと、彼から目を逸らすついでに近くの風景を遠目でぼんやりと眺めた。

緑だけじゃない。
空はちょうどよく雲で薄まった水色だし、花壇には色とりどり植えられている。
きっと、毎年こうだったはずなのに、私はちっとも知らなかった。


『そんなもんだよ。俺も、出かけるようになったの、つい最近』

「そうなの? 」


日向ぼっこと永遠くんが似合いすぎて、よく来たりするのかなって勝手に思ってた。
ベンチに座って、お花とか遊んでる子どもとかをにこにこ見つめてるイメージ――……。


『ん。さくらに会ってから。前は、必要最低限しか外に出なくて、ずっと引きこもってたから』


――本当に勝手すぎた。


「違うよ。つまり、さくらのおかげってことなんだから」


唇、噛んだかな。
じゃなきゃ、それこそ無表情の私の気持ちがバレるはずないもの。


『世界に色が見えたの、ほんと。さくらに会って、好きになってから、何か見て綺麗だなーのんびりできるなって思えるようになった』


一体私のどこに、そんな綺麗なものを見出してくれたのか。
私こそ、モノクロに近い世界の住人のような気がする。


『だから、そんなもん。好かれようとして好きになってもらえるのが大変なのと同じように、意識しなくても人を救ってることもある。俺とさくらみたいに』


真逆のようだけど、そんなものなのかもしれない。
教えてくれてからも未だによく分からないし、いまいち納得もいってないけど。


「見えてるものは同じなのにね。前の俺は、嫌で嫌で、もう何も感じないくらい無気力だったけど、この世界にいれてよかったって思えるようになった。だって、さくらがいる世界だから」


何だか壮大な話に聞こえるけど、永遠くんの言うことは何となく分かる。
誰か、何かを好きに思えば、きっとそんな現象が起きるんだろうと。


「……で、でも。その……見れば分かると思うけど、私永遠くんよりもだいぶ……いや、かなり年上だよ!? 永遠くんみたいな格好いい子の恋愛対象にはならないと思うんだけど……」


そんなの、見ればすぐ分かる。
告白してくれた時点で、そのうえで好きになってくれたことも分かってる。
なのにどうして、私はどこに釘を差そうとしてるの。


「……やだ」

「え……? 」


ふいっと目を逸らされた瞬間、しまったと俯いてしまってた。
永遠くんが声を発しても怖くて顔を上げられずにいると、彼にしては強引にスマホを見せてくる。


『格好いいは嬉しいし、やったって思うけど。それほとんど全部打ち消されるくらい。もしかしたら、小動物扱いよりもずっと』

「……さくらに“子”って言われるのは嫌だ。それって」


――好きだから生まれる感情だって、俺に確かめさせただけなんだよ。