今からニ年前ーーー。
 



「ねえ、先生?」

「ん?」

「私、二十歳になったら先生と結婚したい」


 当時担任していた生徒に矢薙(やなぎ)咲音(さくね)という生徒かいた。
 その矢薙に、そう言われたことを今でも覚えている。 
 冗談だと思っていた俺は「なに言ってんだ。先生をからかうんじゃないぞ」と濁していたのだが、まさかその言葉が現実になると思っていない俺は、そんなことすら忘れていた。

「冗談なんかじゃないよ。 私、本気で先生と結婚するから」

「そんなこと、簡単に言うもんじゃないだろ」

 なんで俺なんかと結婚したいと思うのか……。と思っていたが、生徒のことを異性とした見たことはないし、見ることもない。
 矢薙はただの生徒であって、それ以上でも以下でもないのだから。

「私は本気だよ、先生。 だから私、二十歳になったら先生にプロポーズするから」

「ぷ、プロポーズ……!?」

 おいおい、矢薙は本気で頭がイカれてるのか? 頭がおかしいのか?
 教師をからかうなんて、一体なにを考えてるんだ……。

「だから後二年待っててね、先生」

「ほら、冗談言ってないで早く帰れ」

「本気なのにー……」

 そんな会話をしたことすら、今ではうっすらの記憶でしかない。
 


 だけど、その二年後ーーー。