そんな約束をした帰り道、たまたま馬車の窓から見ていた街の風景で気になるものを見つけた。


「止まれ!」


 ある店の前で馬車を降り、店頭に飾られたブローチを凝視する。
 紫色の宝石がついた、幼い子どもでもつけられそうな可愛らしいデザインのブローチ。



 ……アイツの瞳の色と一緒だ。



「買いますか?」

「!」


 一緒に馬車を降りたオリバーが、優しく問いかけてくる。
 きっと、なぜ俺がこのブローチを見ているのか、誰のためにと考えているのか、全部バレているだろう。

 それでもハッキリと口にしないオリバーに感謝をして、俺はコクッと頷いた。



 いつも菓子をもらっているから、そのお礼だ。
 別に深い意味なんてない……!



 そう心の中で自分に言い訳をして、俺はそのブローチを買って帰った。
 よく考えてみれば、自分から何かを欲しがるのも、誰かに贈り物をしたいと思ったのも、古い教会以外の場所で馬車から降りるのも初めてだった。



 これを渡したら、アイツ喜ぶかな?



 そんな姿を想像しただけで、自然に笑顔になれた。
 部屋に閉じこもってから3ヶ月。俺は久しぶりに笑えたのだ。

 だが──。




「もう、あの教会に行くことはできません」

「……え?」


 突然のオリバーの言葉に、俺は全身の力が抜けたような感覚になった。