何もすることがない静かな部屋の中で、ずっとそんなことばかり考えていた。

 日に日に痩せていき、正気を失っていく俺。
 そんな俺を心配した父とオリバーが、ある提案をしてきた。


「街に出てみませんか?」


 オリバーにそう言われたとき、俺は目を丸くして黙った。
 王子として生まれてからこの7年、公務以外で街に行ったことなどなかったからだ。


「今の俺が民の前に出たら、幻滅されるだけだよ」

「もちろん、ジョシュア殿下だということは隠します。陛下からもそこはしっかりと忠告されております。別人として、街に出てみませんか?」

「別人?」


 眉をくねらせて聞き返すと、オリバーは黒いモサモサの物体を俺の前に出した。


「な、なんだこれは?」

「ウイッグです。被ってみてください」


 言われるがままにそれを被ると、視界が一気に真っ暗になった。
 鼻の途中まである長い前髪のせいで、前がよく見えないのだ。