「あっ……あの、フレッド殿下!」

「何?」

「…………いえ。なんでもないです」

「?」


 この国に来ていた7歳くらいの頃、古い教会に通っていましたか?
 そう聞こうとして、やめた。



 もしフレッド殿下がその男の子だったとしても、何も変わらないわ。



 フレッド王子の乗った馬車を見送ったあと、私はポケットに入れていたブローチを取り出した。
 もし思い出の男の子の話になったら見せられるようにと、念のため持ってきていたのだ。


「昔好きになった相手だとしても、もう一度好きになるとは限らないのね」


 今、私の心の中を占めているのは、思い出の男の子に似たフレッド王子ではない。
 意地悪で自分勝手で人をからかってばかりいる、あの腹黒王子だ。……自分でも納得できないけれど。


「私、いつの間にジョシュア殿下のことを……」


 そんな独り言を呟きながらブローチをポケットにしまい、私は家族の待つ家に入った。