「はぁ……。婚約なんてしていないわ。誤解だから、みんなにもそう伝えておいて」

「そうなのですか? お似合いだって聞いたのに」


 目に見えてガッカリしているドロシーに、朝食を食べるようにジェスチャーで伝える。
 手に力がこもっていたせいか、すっかりボロボロになったパンを口に運びながらドロシーが問いかけてきた。


「では……もしフレッド殿下に求婚されたら、セアラ秘書官は受けるんですか?」

「え?」

「ここ数日で、フレッド殿下が何回もセアラ秘書官への面会要請を出していたと聞きました。フレッド殿下はセアラ秘書官が好きなのでは?」

「…………」


 私への面会要請が何度もきていたことを、なぜ知っているのか。
 使用人たちの裏のつながりを恐ろしく感じながらも、私は冷静に答える。


「そんなこと、あるわけないでしょ」

「たとえ話ですよ〜! 考えておいても損はないではないですか。で、どっちですか!? 受けるんですか? 断るんですか?」


 一度輝きをなくした瞳が、再度キラキラと眩しく光る。
 恋話の大好きな女性がこんな瞳で語り合っているのを、女学園時代によく見た気がする。



 完全に楽しんでいるわね、ドロシーったら。
 でも、もしフレッド殿下に求婚されたら……?