「なんでもないわ。今日も忙しくなりそうだな~と思ったら、ついため息をついてしまっただけよ」
 
「そうなのですか。でも、あんなに素敵なジョシュア殿下の近くにいられたなら、疲れなんてすぐに吹き飛んでしまいそうですね」
 
「…………」
 
「本当に羨ましいです。一度でもいいので、あの麗しい笑顔を目の前で見てみたいものですわ」
 
「…………」

 
 うっとりと頬を染めて話す可愛らしいドロシーを、冷めきった瞳で見つめる私。
 とてもじゃないけど共感することはできない。


 
 麗しい笑顔……ね。たしかに、お顔だけ見れば麗しい笑顔だわ。
 あれが心の底からの爽やかな笑顔だったなら……ね?
 
 それに、近くにいられたら疲れなんて吹き飛ぶですって?
 むしろ殿下のせいで疲れが増しているくらいだわ。


 
 ドロシーだけでなく、他の女性もみんなこのようにジョシュア殿下を慕っている。
 まさか中身は悪魔のような腹黒男だなんて、誰も想像したことがないだろう。