希空は困ってしまい、小さな声を出す。
「……周りの人が大きくなくて、自然に」
男性の隣で五センチヒールを履くと「同じ身長になる」と嫌がられた。
以来、男性と並ぶことを考えてヒールのない靴を選んでしまう。
けれど、ヒールを綺麗に履きこなしている女性に憧れもあった。
「でも私が履くと、さらに大女になってしまいます」
本当は友達の結婚式には華やかな格好をしたいし、デートの時にはオシャレをしたい。
しかし、そもそもの選択肢がない。
理人は晴やかな表情を見せてくれた。
「一八五センチの俺となら、気にせずにヒールを履いて出かけられるよ。じゃあ、最初の店は決まったな」
……なにが決まったのだろう。
希空が見つめていると、理人は携帯でなにごとかを調べている。
やがて得た情報に納得したようで、彼女に告げた。
「よし。飲み終わったら、出よう」
「は、はい……?」
連れて行かれたのは靴屋。
理人は希空の好みを確認すると、店主にあれこれ出してもらう。
やがて、シューフィッターでもある店主が靴を持ってきてくれた。
「あの……?」
戸惑っている彼女に、男は履いてごらんと促す。
「鏡の前に立ってみて」
命じられて渋々見てみると、希空の前にす、と立つ女性がいる。
誰? と二度見したら自分だった。
野暮な格好をしているのに、だからこそ立ち姿の美しさが際立つ。
「どう?」
「……服は変わってないのに、全然雰囲気が違う……」
グラグラするから、腹部に力を入れる。
鏡で横を向いたら背中が丸まっていたので、頑張って背筋を伸ばしている。それだけだ。
理人が、希空の後ろから鏡の中に現れてくる。
頬がふれあいそうな近さにドキドキしてしまう。
「こうやって並んで立つと、俺と希空ってバランスがいいよな」
希空は目をパチクリさせた。
確かに彼と並ぶと、普通の男女くらいしか差がない。
「そうかも……」
同意したのは無意識だった。
「とりあえず、この靴は次点かな。次を見せてください」
理人は店主に次々に靴を持ってこさせると、都度彼女に履かせる。
「いいね」
彼が褒めたのは、希空もこっそり気に入った七センチのヒールだった。
「希空、歩いてごらん」
理人に促されて店内を歩いてみる。
「どう?」
「歩きやすいです」
「こちらは美脚に見える上に、走れると評判なんですよ」
店主が歩きやすい理由を説明してくれた。
歩幅を大胆に取りたくなる。
自分でも、安全靴を履いているときくらいキビキビと動けるのを感じた。
不思議なことに、とても息がしやすい。
「背中をピンと張っているから。猫背に潰されていた肺にしっかり空気が送りこまれているからだよ」
希空のなんで? という表情の意味を読んだのか、理人が解説してくれた。
「きちんと呼吸できると、頭がスッキリする。モヤモヤが晴れるとポジディブになれる」
世界が明るくなったのはそのせい?
「希空が納得したところで、じゃあこれを」
理人がクレジットカードを当然のように店主へ差し出すので、希空は驚いた。
「自分で払いますから!」
「希空? まさか初デートの記念プレゼントを断らないよな?」
男に流し目を寄越されて希空が目を白黒させる。
店主が靴を箱に入れてくれてリボンをかけますかと理人に質問してきた。
「履くかもしれないから、タグは取ってください」
希空が呆然としている間に、会計が済んでしまった。
「さ、希空。次に行こう」
「……周りの人が大きくなくて、自然に」
男性の隣で五センチヒールを履くと「同じ身長になる」と嫌がられた。
以来、男性と並ぶことを考えてヒールのない靴を選んでしまう。
けれど、ヒールを綺麗に履きこなしている女性に憧れもあった。
「でも私が履くと、さらに大女になってしまいます」
本当は友達の結婚式には華やかな格好をしたいし、デートの時にはオシャレをしたい。
しかし、そもそもの選択肢がない。
理人は晴やかな表情を見せてくれた。
「一八五センチの俺となら、気にせずにヒールを履いて出かけられるよ。じゃあ、最初の店は決まったな」
……なにが決まったのだろう。
希空が見つめていると、理人は携帯でなにごとかを調べている。
やがて得た情報に納得したようで、彼女に告げた。
「よし。飲み終わったら、出よう」
「は、はい……?」
連れて行かれたのは靴屋。
理人は希空の好みを確認すると、店主にあれこれ出してもらう。
やがて、シューフィッターでもある店主が靴を持ってきてくれた。
「あの……?」
戸惑っている彼女に、男は履いてごらんと促す。
「鏡の前に立ってみて」
命じられて渋々見てみると、希空の前にす、と立つ女性がいる。
誰? と二度見したら自分だった。
野暮な格好をしているのに、だからこそ立ち姿の美しさが際立つ。
「どう?」
「……服は変わってないのに、全然雰囲気が違う……」
グラグラするから、腹部に力を入れる。
鏡で横を向いたら背中が丸まっていたので、頑張って背筋を伸ばしている。それだけだ。
理人が、希空の後ろから鏡の中に現れてくる。
頬がふれあいそうな近さにドキドキしてしまう。
「こうやって並んで立つと、俺と希空ってバランスがいいよな」
希空は目をパチクリさせた。
確かに彼と並ぶと、普通の男女くらいしか差がない。
「そうかも……」
同意したのは無意識だった。
「とりあえず、この靴は次点かな。次を見せてください」
理人は店主に次々に靴を持ってこさせると、都度彼女に履かせる。
「いいね」
彼が褒めたのは、希空もこっそり気に入った七センチのヒールだった。
「希空、歩いてごらん」
理人に促されて店内を歩いてみる。
「どう?」
「歩きやすいです」
「こちらは美脚に見える上に、走れると評判なんですよ」
店主が歩きやすい理由を説明してくれた。
歩幅を大胆に取りたくなる。
自分でも、安全靴を履いているときくらいキビキビと動けるのを感じた。
不思議なことに、とても息がしやすい。
「背中をピンと張っているから。猫背に潰されていた肺にしっかり空気が送りこまれているからだよ」
希空のなんで? という表情の意味を読んだのか、理人が解説してくれた。
「きちんと呼吸できると、頭がスッキリする。モヤモヤが晴れるとポジディブになれる」
世界が明るくなったのはそのせい?
「希空が納得したところで、じゃあこれを」
理人がクレジットカードを当然のように店主へ差し出すので、希空は驚いた。
「自分で払いますから!」
「希空? まさか初デートの記念プレゼントを断らないよな?」
男に流し目を寄越されて希空が目を白黒させる。
店主が靴を箱に入れてくれてリボンをかけますかと理人に質問してきた。
「履くかもしれないから、タグは取ってください」
希空が呆然としている間に、会計が済んでしまった。
「さ、希空。次に行こう」