「えー、絶対に変わってるよ。あの先生のこと好きになるなんて」

昼休みの教室、恋愛話で盛り上がっていた私達。
好きな人の話を振られた私が話したのは、皆が怖いと口々に言う先生だった。

「奈々と高畑先生か…まぁ、ありって言ったらありだなんだろうけどね〜」

私は田村奈々(たむらなな)。今を生きる女子高校生だ。
恋盛んなこの時期、クラスメイト達は恋愛話が絶えない。
ご多分に漏れず、私が居るグループでも恋愛話は流行っていた。

私が好きな人___高畑隼一(たかはたじゅんいち)先生。
入学式で見た時、一目惚れしか無かった。
黒縁メガネがよく似合う、スラリとしている長身の先生だ。
でも、手にはいつも結婚指輪をはめていて、授業中も楽しそうに家族の話をする。
だから、先生に思いが届かないのは知っている。
最初から叶わない恋。それが実際だった。

キーンコーンカーンコーン…と、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り響いた。

「やば、次高畑先生の授業じゃん…準備しないと怒られる…」

友人たちが散り散りになって、準備を始める。
そう。高畑先生は学年1怖い先生…と言われている。
確かに…でも、その怒ってる姿さえ美しく感じてしまう。
キリッとした淡麗な声が、体に響いてくるような気がして。

再び、チャイムが鳴った。

「授業を始めますよ」

何気ない先生の一言なのに、私には何かのパレードが起こるような感覚に感じる。
先生はプロジェクターに資料を映し出す。
ハイテクだなぁ…
機械をきっちり使いこなす先生の姿はまさに大人の男性。
落ち着いた声もさることながら、授業の進め方も誰よりも上手。
私はノートを張り切って書く。
どの授業よりも、先生も授業は真面目に受ける。
ううん、逆に不真面目になんか受けたくない!

「次回はテストです。各自しっかりと勉強してくださいね」

先生の声で、私はカレンダーを見る。
そう言えば…明後日はテストだった。
真面目に私が受けてる授業は、専ら先生の授業だけ。
他の授業は…そこそこというか、まぁ…それ以下でもある。
赤点量産マシーン、と陰で呼ばれてる。まだ高校1年生なのに…

授業中も先生のことを考えてばかり。
ノートをしっかり書いているか見回りにくる先生が、私は一番好き。
ふんわりとした甘い香り。
それに先生のスーツ姿。
どんなに暑かろうと、きっちりと着こなしていて、先生のスーツが乱れているところだなんて見たことない。
そして先生の後ろ姿。
ツバメの尾型の部分が風になびいていて、羽のようだ。
でも…
通り過ぎる先生を見るのと同時に、先生が遠くて手に入らない存在であることを思い知らされる。
先生の手にある結婚指輪が物語っている。
ここは私が立ち入る場所ではない…みたいな。

ああ、神様…

先生と結ばれるチャンスが欲しい!
なんて…

妄想にふけっていると、授業はすぐに終わってしまう。

結局何も変わらないまま、先生の授業は終わってしまった。