「でも、それで私が嫌われる原因にはならなくない?藤原さんは私と龍二の関係なんて知りようがないし」

「そんなこともないんじゃない?面接の時一緒にいたし。いや、それなら愛海も落とされるか‥‥うーん、休日にデートしてるとこ見られたとか?実際何度か会社の人に会ってるじゃん?」

「だとしても、そんなことで大卒の社員に仕事をさせずに遊ばせておくようなことする?人件費ってまあまあするよね?」

「あの人がどういうつもりで俺に声かけたかは知らないけど、さっきの顔も見たでしょ?相当プライド高そうだし、結構面倒臭いタイプなんじゃない?」

 龍二の考察はあながち間違いではなかったようで、週明け早々職場に嵐が吹き荒れた。

 製品テストのやり方がどうとか結果がどうとか‥‥これまで問題とされなかった部分で上から大クレームが入り、約1ヶ月分のテストがやり直しとなってしまったのだ。

 上とは当然藤原さんのことで、私が彼女から嫌われてるのは周知の事実だったため、職場が一気に針のむしろ状態と化した。いちゃもんレベルのクレームで仕事量が突然2倍になったのだから、この反応は仕方ないと思う。

 こんなことになった原因に心当たりが大ありだった私は、早出と残業を繰り返し、とにかく無心でテストをやり続けた。

 一息入れようと休憩室でコーヒーをすすりながらふと考える‥‥

 あの時確かに龍二の態度は悪かったと思うけど、私自身は藤原さんに何もしていない。

 そもそも個人的に就活生を飲みに誘った藤原さんに問題があったのだ。それなのに彼女は龍二への怒りを私に嫌がらせすることで晴らそうとして、テストチーム1ヶ月分の人件費を易々と無駄にした。

 これではっきりした。私が開発チームに配属されなかった理由は『龍二の彼女だったから』で間違いない。

 理不尽過ぎて意味がわからないし納得もできない。どうりで人事に拒否する理由を説明できないわけだわ。本当に馬鹿馬鹿しい。私が憧れていた人は、呆れる程低次元な人物だった。

「なんかスッキリしたな」

 私は作業スペースに戻ってテストを続けた。その日も日付が変わるまで仕事をして、人事部宛にメールを送ってから家に戻った。数時間寝たらまた出社だ。

 こんな無駄な仕事は少しでも早く終わらせてしまいたい。そして私はこの会社を辞めて転職する。彼女の下では働けないし、彼女のせいで研究職を諦めるなんてしたくない。